Case310 会社が従業員に対してヘイトスピーチ等を含む資料を配布するなどした行為が在日韓国人である原告に対する不法行為にあたるとした事案・フジ住宅ほか事件・大阪高判令3.11.18労判1281.58
(事案の概要)
被告会社は、2年以上に渡り、従業員に対する教育と称して、中国・韓国・北朝鮮の国籍や民族的出自を有する者に対して「死ねよ」「嘘つき」「卑劣」「野生動物」などの文言を用いて侮辱するものを含む文書を配布していました(本件配布①)。
また、被告社長は、3年間毎年、従業員に対して、勤務時間中に教育委員会が開催する教科書展示会に行き、社長らが支持する教科書の採択を求めるアンケートを提出するよう促しました(本件勧奨)。
韓国籍を有する原告労働者は、本件配布①及び本件勧奨が違法である」「:として、被告らに損害賠償を求めて本件訴訟を提起しました。
これに対し、会社が、会社従業員に対して、本件訴えや提訴者(匿名)に対する批判が記載された従業員作成の感想文等を配布し(本件配布②)、本件配布②の違法性も争点となりました。
原告は、会社による資料配布等の差止めも求めました。
(判決の要旨)
判決は、本件配布①、本件勧奨及び本件配布②の違法性をいずれも肯定し、被告らに慰謝料120万円の支払いを命じました。
1 本件配布①
判決は、被告らは、原告に対する関係で、民族的出自等に基づく差別的な言動が職場で行われることを禁止するだけでは足りず、そのような差別的な言動に至る源となる差別的思想が自らの行為又は他社の行為により職場で醸成され、人種間の分断が強化されることがないよう配慮する義務があるとしたうえ、被告らは、自ら職場において原告の民族的出自等に関わる差別的思想を醸成する行為をした場合はもちろん、現に職場において差別的思想が醸成されているにもかかわらずこれを是正せず、放置した場合には、職場環境配慮義務に違反するとしました。
そして、本件配布①の文書の中には、ヘイトスピーチや侮辱的文言を用いた人格攻撃により民族間の相互理解、寛容及び友好を妨げる表現行為が含まれているとして、本件配布①のうち、これらの表現を含む資料の配布は、その一資料を配布する個別の行為のみであっても、専ら原告の民族的出自等に関わる差別的思想を職場において醸成する行為に該当し、在日韓国人である原告の人格的利益を侵害する行為であるとしました。
また、ヘイトスピーチ等を含まない資料の配布についても、差別的思想を醸成する可能性のある一定の傾向を有する資料を、継続的かつ大量に配布した結果、差別的思想を醸成させ、現実の差別的言動をいずれ生じさせかねない温床を被告ら自らが作出した行為であり、原告の人格的利益を侵害したものとして不法行為責任を免れないとしました。
2 本件勧奨
判決は、使用者が自己の指示する政治運動への参加を従業員に促すことについては、たとえ参加を強制するものではないとしても、参加の任意性が十分に確保されているか(勧奨の態様、不参加に当たり自己の見解の表明が余儀なくされないか、不参加の容易性等)等、諸般の事情を総合的に判断して、その勧奨が社会的に許容できる限度を超えている場合には違法になるとしたうえ、本件の事情に照らすと本件勧奨は違法であるとしました。
3 本件配布②
判決は、本件配布②のうち、原告が本件訴訟を提起、追行すること自体を誹謗中傷する表現を含む資料の配布行為については、その一資料を配布する個別の行為のみを評価しても、原告の人格的利益を侵害するものとして不法行為に当たるとしました。
4 差止め請求
判決は、ヘイトスピーチ及び売国奴等侮辱的言辞を用いて人格攻撃する表現を含む資料、原告が本件訴訟を提起、追行すること自体を批判、誹謗中傷する表現を含む資料の配布の差止めを認めました。
※上告棄却により確定