Case399 労働者のセクハラの訴えに対して会社が職場環境配慮を怠ったため退職を余儀なくされたとして不就労期間の賃金や逸失利益の請求が認められた事案・P社ほか(セクハラ)事件・大阪地判令2.2.21労判1233.66
(事案の概要)
1 原告A
被告会社で秘書業務などをしていた原告労働者A(女性)は、被告役員(男性)に同行してローマ出張に赴いた際、ホテルに向かうタクシーの中で、役員から「どうや、愛人になるか」「君が首を縦に振れば、全部が手に入る」などと告げられました。また、ホテルに着くとチェックインできる部屋が役員名義で予約された一部屋しかなく、原告Aは別室を希望したものの、役員の部屋への移動を余儀なくされました。部屋に着くと役員がシャワーを浴び始めたため、原告Aはホテルから逃げだし単身帰国し、その後就労することができず、3か月後に退職しました。
原告Aは、会社及び役員に対して、役員のセクハラ行為による慰謝料を請求しました。また、会社の職場環境整備義務違反により退職を余儀なくされたとして、不就労期間の賃金や退職による逸失利益を請求しました。
2 原告B
被告会社で就労していた原告労働者B(女性)は、役員からLINEで「自ら退職届を出した方がいいと思う。退職届を出さない場合は、今日付けで解雇します。この場合、貸した20万円は、給料から差し引きます。」と告げられました。原告Bは、これに対して「脅しているのですね。解雇する場合、30日前に予告しない場合は1か月分の給料を支給しないといけないので、20万円では足りませんけれど。」などと返信し、退職届は提出しませんでした。
会社は、原告Bを解雇しました。
原告Bは、会社に対して、解雇の無効を主張して雇用契約上の地位の確認等を求めました。会社は、上記LINEのやり取りにより雇用契約が合意解約されたと主張しました。
なお、原告Bの、役員からセクハラを受けたという訴えは認められませんでした。
(判決の要旨)
1 原告A
⑴ セクハラ慰謝料
判決は、役員の言動及び対応は、原告Aに対し、意に沿わない性的関係等を要求される危惧を抱かせるものであったとして、役員の一連の行動及び対応は、全体として違法なセクハラ行為に当たるとし、会社の使用者責任も認め、被告らに対して慰謝料50万円の支払いを命じました。
⑵ 職場環境配慮義務違反
判決は、原告Aがセクハラの訴えをしていたにもかかわらず、会社が使用者として採るべき事実関係の調査や出社確保のための方策を怠ったものとして、会社の職場環境配慮義務違反を認め、会社に対して不就労期間の賃金の支払い(民法536条2項)や、逸失利益として給与3か月分に相当する90万円の支払いを命じました。
2 原告B
判決は、LINEのやり取りにおいて原告Bが退職に納得していた様子はなく、原告Bが解雇翌手当に言及したのは解雇されることを前提とした対応であると解するのが合理的であるなどとして、雇用契約の合意解約を否定しました。
また、会社による解雇を無効とし、地位の確認等を認めました。
※控訴