Case415 無期契約労働者と有期契約労働者との間の家族手当・住宅手当・精勤手当の差異が旧労契法20条の不合理な格差に当たるとされ無期転換後の損害賠償責任も肯定された事案・井関松山製造所事件・高松高判令1.7.8労判1208.25
(事案の概要)
被告会社と有期雇用契約を締結していた原告労働者らが、無期契約労働者との間に、就業規則上、下記労働条件の相違があることが旧労契法20条の不合理な格差に当たるとして損害賠償請求した事案です。
原告らに適用されていた有期契約社員就業規則では、家族手当、住宅手当、精勤手当を支給する定めがありませんでした。また、賞与は支給しないとされていましたが、本人の成績等を考慮して寸志を支給することがあるとされており、原告らには年2回それぞれ一律5万円の寸志が支給されていました。
無期契約労働者 | 有期契約労働者 | 結論 |
賞与あり | なし(寸志の支給あり) | 不合理とはいえない |
家族手当 | なし | 不合理 |
住宅手当 | なし | 不合理 |
精勤手当 | なし | 不合理 |
一審判決後、原告らは無期転換権を行使し無期雇用契約に転換しましたが、無期転換者に適用される無期転換社員就業規則には、家族手当、住宅手当、精勤手当を支給する定めがなく、また賞与は支給しないとされていました。無期転換後の差異についても会社が損害賠償責任を負うかが問題となりました。
(判決の要旨)
1 賞与
判決は、賞与を支給するか否かは使用者の裁量判断によるところ、長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという目的にも相応の合理性が認められるなどとして、有期契約労働者への不支給が不合理な格差に当たるとはいえないとしました。
2 家族手当
家族手当について、扶養家族の有無及びその人数によって支払われていたものであり、支給額の多寡について会社に格段の裁量もないことから、人事政策上の考慮に基づく差異であるとはいえないとして、有期契約労働者への不支給は不合理な格差に当たるとしました。
3 住宅手当
住宅手当について、賃貸住宅への居住の有無によって支払われていたものであり、支給額の多寡について会社に格段の裁量もないことから、人事政策上の考慮に基づく差異であるとはいえないとして、有期契約労働者への不支給は不合理な格差に当たるとしました。
4 精勤手当
精勤手当について、勤務日数によって支払われていたものであり、支給額の多寡について会社に格段の裁量もないことから、人事政策上の考慮に基づく差異であるとはいえないとしました。また、精勤手当は月給日給者にのみ支払われていたことから、月給者と比べて収入が不安定になりがちな月給日給者に対する配慮の趣旨がうかがわれ、そのことは無期契約労働者か有期契約労働者かによって異ならないことから、有期契約労働者への不支給は不合理な格差に当たるとしました。
5 無期転換後の損害賠償責任
判決は、無期転換就業規則は、原告らが無期転換する前に定められていることを考慮しても、当該定めについて合理的なものであることを要するところ、手当等の支給に関する限り有期契約労働者の労働条件と同一であること、労働組合との交渉がなく原告らが無期転換就業規則の労働条件を受け入れたという証拠もないこと、合理性について会社が特段の立証をしていないことから、会社が無期転換後の損害賠償責任を負わないということはできないとしました。
※上告棄却により確定