Case453 当日に消防署の査察があることを知ったことが「異常な出来事」に当たるとして査察の対応のための重労働と急性心筋梗塞との因果関係を認めた事案・立川労基署長(日本光研工業)事件・東京地判平18.7.10労判922.42

(事案の概要)

 労災不支給決定に対する取消訴訟です。

 本件労働者は、パール顔料、化粧品基材、人工オパールの製造を主たる業務とする会社の技術部技術担当製造一課長の地位にあり、消防法上の危険物保安監督者として消防関係の責任者を務めていました。本件労働者は、軽度ないし中等症の高血圧で、30年間にわたる喫煙歴がありました。

 本件会社は、過去2回消防署の立入検査で改善指導を受けており、消防署長に届け出ていた指定数量を超える量の危険物を危険物倉庫に保管していました。

 本件労働者は、立川消防署から、2時間後に立入検査を行うと連絡を受け、立入検査までに書類を整理し、指定数量を超える危険物等を倉庫から搬出しなければならなくなりました。

 本件労働者は、1時間かけて書類の整理をしたうえ、約30分の間に約38㎏の一斗缶を両手に提げて、約24回にわたって各4mの距離を運び、これを3段に積み上げる本件作業を行いました。

 その直後、本件労働者は救急搬送され、急性心筋梗塞により死亡しました。

 本件労働者の妻である原告が労災申請しましたが不支給決定がなされました。

(判決の要旨)

 判決は、虚血性心疾患は、通常は基礎となる病変が、日常生活上の種々の要因により、徐々に進行・増悪して発症に至るが、業務による過重負荷が加わると、急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こし、発症の基礎となる血管病変等が自然の経過を超えて著しく増悪して発症する場合もあるとされているので、過重な業務によって基礎疾患の自然的経過を超えて虚血性心疾患を発症したと認められる場合に、当該心臓疾患の発症が業務に内在する危険が現実化したものと評価し、業務起因性を認めるのが相当であるとしました。

 そして、本件労働者は、これまでの査察の例と異なり、当日になって査察が実施されることを知り、約2時間の間に体制を整えなければならなかったこと、本件労働者は危険物安保責任者として責任を負う立場にあり、前回査察で指摘された点の改善措置をとっていなかったことから大いに動揺し強い衝撃を受けたことから、当日に突然査察が行われることを知ったことは「異常な出来事」と評価できるとしました。

 そのような「異常な出来事」の下に行われた本件作業は、著しく血管病変等を増悪させるような急激な血圧変動や血管収縮を引き起こし得る業務であったとして、業務起因性を認め、不支給決定を取り消しました。

※控訴

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