労働基準法第1条 労働条件の原則
(労働条件の原則) 第一条 ① 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。 ② この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。 |
~解説~
第1項
⑴ 憲法25条1項は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定して国民の生存権保障を明確にしています。労基法1条1項は憲法25条1項の趣旨を述べ、労基法の基本理念を宣言したものです。
⑵ 「労働条件」とは、賃金、労働時間だけでなく、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいいます。
⑶ 「人たるに値する生活」というのは一般の社会通念によって決まるもので、時代と共に変化していくと考えられます。
⑷ 理念を宣言したものなので労基法1条1項違反というものは観念できませんが、労基法の各条文を解釈するに当たっては、常にこの基本理念を考慮しなければなりません。
第2項
⑴ 労基法は、あくまで「これを下回る労働条件で労働者を働かせることは許されない」という最低基準を定めたものであり、当事者が労基法を上回る(労働者に有利な)労働条件の合意をすることは何ら妨げられません。
⑵ むしろ、第2項前段は、当事者が「労基法がこう定めているんだから」という理由で労働条件を低下させてはならないとしています。この点、労基法第1条第2項前段に違反する就業規則は無効であるとする裁判例(京都市事件・京都地判昭24.4.9)があり、同項前段を強行規定とする学説がありますが、第1条は全体として訓示規定にすぎないとする学説もあり、見解は分かれています。
⑶ さらに、第2項後段は、当事者はより労働条件を(労働者に有利に)向上させるよう努力しなければならないとしています。これは、文言上もあくまで努力義務を定めたものです。