Case468 国歌斉唱の際の不起立を理由に2度の戒告処分を受けた教員に対する定年後再任用拒否が違法とされた事案・大阪府(府立学校教員再任用)事件・大阪高判令3.12.9労判1298.30
(事案の概要)
被告大阪府立学校の教員として勤務してきた原告労働者は、過去に2回、卒業式の国家斉唱の際に起立斉唱しなかったことを理由に戒告処分を受けていました。
原告は、定年を迎えるに当たり、教育委員会から校長を通じて、国歌斉唱時の起立斉唱を含む上司の職務命令に従うかどうかの意向確認を受けましたが、原告はこれに回答しませんでした。
そうしたところ、原告は、教育委員会から再任用選考を「否」とされ、定年後再雇用されませんでした。
大阪府では、定年後再雇用を希望した教員のほぼ全員が再雇用されており(原告と同じ平成29年度は再任用率99.81%)、過去に体罰を繰り返し減給処分になった者や、停職処分となった者も再雇用されていました。
本件は、原告が大阪府に対して、再雇用拒否が違法であるなどと主張して国賠請求した事案です。
原告は、意向確認自体の違法性も主張しましたが、否定されています。
(判決の要旨)
判決は、地方公務員の再任用制度は、平成13年度から公的年金の基礎年金相当部分の支給開始年齢が65歳まで段階的に引き上げられることになったことに対応したものであり、平成25年度以降、公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢も段階的に60歳から65歳へと引き上げられることに伴い、無収入期間が発生しないよう、国家公務員の雇用と年金の接続を図る閣議決定がなされたことを受けてなされたもので、民間の労働者についても、雇用と年金の接続を図る対応がなされていたことを指摘し、また大阪府における教職員の極めて高い再任用率に照らすと、再任用希望者はほぼ全員が採用されるという実情にあったとしました。
そして、遅くとも、原告が再任用を希望した平成29年度の再任用教職員採用選考の頃には、再任用を希望する教職員には、再任用されることへの合理的期待が生じていたと認められ、この合理的期待は、法的保護に値するものに高まっていたと解することができるとしました。
そうすると、再任用選考の際の従前の勤務成績の評価については、任命権者にある教育委員会の裁量に委ねられているものの、他の再任用希望者との平等取扱いの要請に反するなど、その裁量判断が客観的合理性や社会的相当性を著しく欠くと認められる場合には、裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとしました。
そのうえで、過去に戒告処分を受けたにとどまる原告が「否」とされ、体罰を繰り返し減給処分を受けた教員が「合格」とされており、過去の懲戒処分の軽重と再任用の選考結果とが逆転した状態が生じていることから、原告に対する不採用の判断は、客観的合理性や社会的相当性を著しく欠くものとして、裁量権の逸脱又は濫用に当たり、違法であるとして、大阪府に1年分の給与相当額の賠償を命じました。
※上告不受理により確定