Case494 人事課長が大声を出して原告の人間性を否定する表現を用いて叱責したことが注意指導として社会通念上許容される範囲を超えたとされた事案・三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件・広島高松江支判平21.5.22労判987.29
(事案の概要)
原告労働者は、被告会社において準社員として勤務していました。
原告は、ある日ロッカールームで同僚に対して、「Aさんは以前会社のお金を何億も使い込んで、それで今の職場に飛ばされた」と、従業員Aを誹謗中傷する発言をしました。
原告は、2度の面談で上記発言を否定していました。
原告は、役員に電話して、Aについて「サンプルの不正出荷をしている人がいる」と述べたり、人事が従業員に対して県外出向を強要しているなどと述べました。
被告人事課長は、原告の行動について原告に注意、指導をすることなどを目的に原告と本件面談を実施しましたが、その中で、終始ふて腐れたような態度で横を向いていた原告の態度に腹を立て、感情的になり、大きな声を出して以下のように叱責しました。
「黙っていればいいのに、言動を避ければいいのに、正義心か何か変な正義心か知らないけども、会社のやることを妨害して何が楽しいんだ。あなたはよかれと思ってやっているかもわからんけども、大変な迷惑だ、会社にとっては。そのことがわからんのか。」
「だったら証拠出せよ、それを。証拠持ってこい。使い込んだ証拠持ってこい、何億円の。」
「出るとこ出ようか。民事に訴えようか。あなたは完全に負けるぞ、名誉毀損で。あなたがやっていることは犯罪だぞ。」
「全体の秩序を乱すような者は要らん。うちは。一切要らん。」
「何が監督署だ、何が裁判所だ。自分がやっていることを隠しておいて、何が裁判所だ。とぼけんなよ、本当に。俺は、絶対許さんぞ。」
本件は、原告が会社や被告人事課長に対して損害賠償請求した事案です。
(判決の要旨)
判決は、被告人事課長らが本件面談を行ったこと自体については、企業の人事担当者が問題行動を起こした従業員に対する適切な注意、指導のために行った面談であって、その目的は正当であるとしました。
もっとも、被告人事課長が、大きな声を出し、原告の人間性を否定するかのような不相当な表現を用いて原告を叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えているものであり、原告に対する不法行為を構成するとして、被告らに対して慰謝料10万円の支払いを命じました。
※上告