Case506 解雇予告義務違反の即時解雇の効力につき選択権説に立って労働者の解雇予告手当の請求権を認めた裁判例・宇田工業事件・大阪地判昭60.12.23労判467.74

(事案の概要)

 原告労働者は、昭和57年9月、被告会社から、経営困難に陥り裁判所へ和議申請(民事再生)をしたことを理由に即時解雇され、解雇予告手当も支払われませんでした。

 会社は、和議申請の直前の昭和57年5月に退職金規程を作成・周知していました。

 本件は、原告が会社に対して、解雇は有効であることを前提に、退職金規程に基づく退職金及び解雇予告手当の支払を求めた事案です。

(判決の要旨)

1 退職金

 会社は、①退職金規程は従業員が無断で作成したものである、②退職金規程は破産の場合に優先債権として従業員の退職金債権を認めてもらう意図で、実際に支給する意思がないのにその意思があるかのように仮装することを従業員と合意して作成したものであり、通謀虚偽表示として無効である、③和議申請をした際に従業員との間で退職金を支払わない合意をした、との主張をして退職金の支払を拒みましたが、いずれも理由がないとして原告の退職金請求が認められました。

2 解雇予告手当

 解雇予告手当を支払わないでされた即時解雇も、即時解雇としては無効ではあるものの、30日の予告期間を経過した時点で有効になるため(相対的無効)、この場合に労働者が解雇予告手当の支払を求めることができるかが問題となりました。

 判決は、労基法114条が解雇予告手当に付加金を定めており、解雇の意思表示の後に使用者に解雇予告手当支払義務が残存することがあることを前提としていることなどを指摘したうえ、使用者が労基法20条に違反して、労働者に対し、解雇予告手当の現実の支払をなすことなく即時解雇の意思表示をなしたときは、労働者においてその無効を主張することもできるが、他方、労働者において、即時解雇の意思表示の効力を争わず、その有効を前提として解雇予告手当の請求を選択することも許されるとしました(選択権説)

 以上より、解雇予告手当及び付加金の請求が認められました。

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