Case524 主要取引先からの受注量減少等を理由とする期間途中の解雇及び雇止めがいずれも解雇回避努力が不十分で無効とされた事案・資生堂ほか1社事件・横浜地判平26.7.10労判1103.23

(事案の概要)

 原告労働者ら7名は平成18年に派遣労働者として使用者と有期雇用契約を締結してA社に派遣され、平成19年以降は被告会社と請負労働契約を締結してA社の鎌倉工場においてA社から受注した業務を行っていました。

 原告らの雇用期間は平成21年1月1日から同年12月31日までの1年間でしたが、雇用期間を同年4月1日から同年5月31日までに短縮する合意をしたうえ、使用者は、「事業の縮小その他会社のやむを得ない事由がある場合で、かつ、他の職務に転換させることもできないとき」に該当することを理由に労働者らのうち5名を同年5月17日付けで解雇し、2名を同年31日付けで雇止めしました。

 本件は、原告らが使用者に対して期間途中の解雇ないし雇止めの無効を主張し、地位確認等を求めた事案です。

(判決の要旨)

1 期間途中の解雇

⑴ 人員削減の必要性

 判決は、A社からの受注が半減する平成21年5月には、鎌倉工場に勤務していた使用者の従業員64名のうち少なくとも使用者が算出した22名の余剰人員が発生する状態にあったと認めることができ、使用者において労働者らの解雇を決定した同年4月の時点において、人員削減の必要性が生じていたことが認められるとしました。

 もっとも、本件解雇が行われる直前の使用者の平成20年11月から平成21年4月までの経常利益は約4150万円であったこと、同期間の当座比率は全国平均の約1.3倍である178パーセントであり、平成21年の平均流動比率は全国平均(162パーセント)を上回る190パーセントであったこと、第8期(平成20年11月1日から平成21年10月31日まで)の内部留保金は6733万円であったこと、が認められ、これらの事実によれば、使用者が平成21年4月の時点で、経営危機に陥り、早急に人員を削減しないと会社全体の経営が破綻しかねないような危機的な状況にあったということはできず、同時点において人員削減の必要性の程度が高度であったとまではいえないとしました。

⑵ 解雇回避努力

 判決は、使用者は、A社から発注量の減少の通告を受けた直後から整理解雇ないし雇止めを念頭に置いて行動していたことは明らかであり、労働者らに十分な説明もないまま本件契約期間短縮の合意をさせている上、希望退職の募集も、上積みの退職条件を示さない短期間のものであって実効性に疑問があるものと言わざるを得ず、しかも、発注量の減少の通告を受けてから10日間に満たない短期間のうちに解雇通知に至っているとし、このような本件解雇に至る経過に照らすと、使用者が本件解雇を回避するための努力義務を尽くしたということはできないとしました。

⑶ 人選の合理性

 判決は、使用者は、本件解雇の対象となる者の人選の基準として、技術に劣る者と欠勤が多い者を対象とすることにしたこと、具体的には、扶養内勤務者を除くフルタイマーの期間従業員のうち、まず勤続6か月以下の者を対象にし、次に出勤率(有給休暇も出勤日数に含め平成20年1月から平成21年2月までを対象に計算)が下位の者を対象としたこと、その結果労働者らが計算の結果、出勤率が下位であったため対象となったことが認められ、上記基準は、主観の入る余地がないという意味において客観的で合理的な整理基準ということができるとし、人選の合理性は認められるとしました。

⑷ 手続の相当性

 判決は、使用者は、労働者らに対し、解雇理由及び人選基準等について一応の説明をしたことが認められるものの、事前に労働者らに対する説明や協議をしておらず、本件解雇に先立つ本件契約期間短縮の合意の際にも使用者が労働者らに対し十分な説明を尽くしていたとはいえないなど、本件解雇について十分に説明・協議をしたとはいえず、また、使用者が労働者らに示した他の就職先は、遠方であったり、そもそも募集期限を徒過していたりしており、使用者が労働者らの再就職支援を十分に行ったとはいえないとし、本件解雇は、手続の妥当性を欠くものであるとしました。

⑸ 結論

 以上より、判決は、人員削減の必要性は認められるものの、その程度は高度なものとまではいえず、使用者において解雇回避努力義務を尽くしたということはできず、手続の妥当性も欠いていたというべきであり、これらの事情を総合すると、本件解雇につき、「やむを得ない事由」(労働契約法17条)があると認めることはできないとし、解雇を無効とし、地位確認等を認めました。

2 雇止め

⑴ 人員削減の必要性

 前述のとおり。

⑵ 解雇回避努力

 前述のとおり。

⑶ 人選の合理性

 判決は、本件において,ライン数の減少に伴いラインリーダー及びラインサブリーダーの人員に余剰が生じることは認められるものの,他のラインリーダー及びラインサブリーダーではなく,原告らを降格の対象としたことが合理的であることを裏付けるに足る主張,立証はなく、人選の合理性は認められないとしました。

⑷ 手続の相当性

 判決は、使用者は,原告らに対し,A社からの受注量が減少しライン数が減少することに伴い,原告6をラインリーダーから,原告7をラインサブリーダーから,それぞれ一般社員に降格し,同原告らの時給を970円に下げた上で同年6月1日以降の労働契約を更新すると伝えたこと,その後,同原告らと使用者は,同年5月末日までの間に,3回話合いの機会を持ったものの,契約条件について一致しなかったため,同原告らは雇止めされたことが認められるとし、使用者は,本件雇止めに至る過程において,同原告らに対し,一応の説明を行っているということができるものの,人選の合理性は認められず,同原告らを降格し時給を下げる理由について合理的な説明があったとは認められないとし、本件雇止めは手続の妥当性を欠くものであるとした。

⑸ 結論

 以上より、判決は、本件雇止めについては,人員削減の必要性は認められるものの,その程度は高度なものとまではいえず,かつ,人員削減回避の措置を十分に尽くしたということも,人選が合理的であったということもできず,手続の妥当性も欠いていたというべきであるとし、雇止めを無効とし、地位確認等を認めました。

※控訴

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