Case525 高度の経営上の困難から人員削減が必要であったとはいえないとして整理解雇が無効とされた事案・ジーエル(保全異議)事件・津地決平28.7.25労判1152.26

(事案の概要)

 労働契約上の地位と賃金仮払いを認めた仮処分決定に対する保全異議事件です。本件会社は、D社から液晶パネルの生産業務を請け負うE社から、さらに上記業務を請け負っていました。本件労働者ら3名は、約5年から8年に渡って本件会社との間の有期労働契約を数十回反復更新し、E社の三重工場で勤務してきました。

 本件は、本件労働者らについてされた整理解雇の効力が争われた事案です。

(決定の要旨)

1 人員削減の必要性

 決定は、人員削減の必要性という要素は、債務超過や赤字の累積など高度の経営上の困難から人員の削減が必要であり、企業の合理的な運営上やむを得ないものとされるときには、これが存在すると解されるとしました。

 そして、平成27年3月、D社の業績悪化や工場閉鎖、減産の報道がなされ、同年4月3日には、E社から過去に例のない大幅な減産になる、同月20日より工場受入人数を60名規模で削減して欲しい旨の生産調整依頼を受けたこと、同年3月には、三重工場内の第1工場が閉鎖され、平成27年4月以降、E社における操業率は低下し、本件会社の仕事量も減少していたこと、財務状況上も、本件会社は貸借対照表上、累積赤字を計上していたこと、といった本件会社の経営状態の悪化を示す事実が認められる一方で、E社は、本件解雇の約1か月前(平成27年6月30日)に行われた本件労働組合との団体交渉の席上、同社が本件会社に支払っている請負代金は、操業減少後も従前の80%から90%を維持しており、当面、E社が本件会社に支払う請負代金を減らす予定はないと述べていたこと、本件解雇後、解雇されなかった労働者の仕事量の動向を調べたところ、休日労働時間の増加などがみられたこと、本件会社の関連会社であるジーアールが、本件解雇後も、亀山工場で勤務する労働者の新規募集をしていることや、財務状況上も、本件解雇がなされた第12期は、3608万6426円の経常利益を計上し、累積赤字も前期に比べ8344万6684円減少していたこと、といった人員削減の必要性に疑問を抱かせるような事実も一応認められ、また、本件会社は貸借対照表上、累積赤字を計上していたこと、第9期には1億7952万5382円、第10期には2億1274万5894円の経常損失があったことが認められる一方で、第11期には経常損失が2930万4237円に減少し、本件解雇がなされた第12期には、3608万6426円の経常利益を計上しており、累積赤字も前期に比べ8344万6684円減少していたことが認められ、本件会社の経営状態が持ち直しているかのようにもみえるとしました。

 決定は、これらのことを考慮すると、本件解雇の目的は、E社の要望を受け本件会社の経営合理化のために人員を削減することにあったと認められ、高度の経営上の困難を原因とする人員削減の必要性は抽象的なものに止まるというべきであり、したがって、本件労働者らを解雇しなければならないほどの人員削減の必要性を認めることはできないとしました。

2 解雇回避努力

 決定は、本件会社は解雇回避努力の一環として、希望退職者を募集したことを挙げるが、希望退職の条件は30万円の慰労金にとどまり、非正規雇用とはいえ、長期間にわたり反復継続して就労してきたであろう従業員らに対し、希望退職を募る退職条件として十分なものとは言えないとしました。

 さらに、本件会社は、これまで、三重工場で操業率の低下があったときには、亀山工場に配転・出向させることで対処していたところ、本件解雇後も、亀山工場では労働者の新規募集がなされているというのであって、本件労働者らを解雇するのではなく、亀山工場に配転・出向させることで、本件解雇を回避することが可能であったものと認められるとしました。

 決定は、以上によれば、本件会社が解雇回避努力を尽くしたとはいえず、解雇回避措置の相当性は認められないとしました。

3 人選の合理性

 決定は、本件会社は、人選の基準について、各希望退職者募集要項に「整理解雇を行う場合の人選基準については、概ね訓戒等の制裁の有無、年齢、勤務成績(業務態度)等を重視して行う予定ですが、基準の詳細は、整理解雇の必要性が生じた際、事前に通知します」と明確に説明している旨主張するが、同募集要項の記載は、人選の基準としては具体性を欠いている上、労働者に対し、同募集要項に記載されている「基準の詳細」が通知されたことの疎明もなく、したがって、募集要項の配布により、本件解雇前に人選基準を事前に設定したとか、労働者に対し、人選の基準を事前に説明したと認めることはできないとしました。

 また、本件会社が本件解雇の際に参照したという人事評価表には、「会社への協力姿勢」、「勤務態度」、「指示に従えない」といった評価者の主観が入りやすい評価項目があり、これが全評点(30点満点)中の半分(15点)もの割合を占めているところ、人事評価表は「D社のニュースを受け、人員削減を行う必要性が生じたために作成した」ものであり、評価の公平性を担保するものは見当たらないとし、このような人事評価に基づいてなされた整理解雇に、人選の合理性を認めることは困難であるとしました。

 決定は、以上によれば、人選の合理性も認められないとしました。

4 結論

 以上より、決定は、手続きの相当性について検討するまでもなく、本件解雇は合理的理由を欠き、社会通念上相当として是認することができず、本件解雇につき「やむを得ない事由」があると認めることはできないとしました。

Follow me!