Case528 職種限定合意がある場合には使用者に配転命令権はないとして解雇回避を理由とする配転命令を有効とした原判決を破棄した最高裁判例・社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件・最判令6.4.26労判1308.5

(事案の概要)

 原告労働者は、平成13年に、公の施設である社会福祉センターの一部である福祉用具センターにおいて、指定管理者等として福祉用具の展示・普及、利用者からの相談に基づく用具の改造・製作ならびに技術開発等の業務を行う財団法人に、溶接ができることを見込まれ、福祉用具の改造・製作ならびに技術開発にかかる技術職として雇用されました。その後、平成15年に、上記財団法人から権利義務を承継した被告法人が原告の使用者になりました。

 平成31年4月、被告法人は、業務の減少から福祉用具の改造・製作をやめる決定をし、原告を18年間勤務してきた技術職から、総務課施設管理担当に配置転換しました。

 また、被告法人は、平成30年度から新たな人事評価制度を導入し、平成31年度の原告の人事評価を最低ランクとして、原告の基本給を3000円減額しました。

 本件は、原告が被告法人に対して、配転命令が違法であるとして慰謝料の支払を求めるとともに、不当な評価による降給が違法無効であるとして差額賃金の支払を求めた事案です。

 なお、原告は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求もしていましたが、否定されています。

(判決の要旨)

一審判決・京都地判令4.4.27労判1308.20

1 配置転換

 一審判決は、原告の職種を技術者に限るとの書面による合意はないものの、原告が技術系の資格を数多く有し、溶接ができることを見込まれて財団法人から勧誘を受け、機械技術者の募集に応じて財団法人に採用されたこと、技術者としての勤務を18年間続けていたこと、福祉用具センターの指定管理者たる被告法人が、福祉用具の改造・製作業務を外部委託化することは本来想定されておらず、かつ18年間原告は福祉用具センターにおいて溶接のできる唯一の技術者であったことからすれば、原告を機械技術者以外の職種に就かせることは被告法人も想定していなかったはずであるから、原告と被告法人との間には、被告法人が原告を福祉用具の改造・製作、技術開発を行わせる技術者として就労させるとの黙示の職種限定合意があったものと認めるのが相当であるとしました。

 しかし、福祉用具の改造・製作をやめたことに伴う原告の解雇を回避するためには、原告を総務課の施設管理担当に配転することも、業務上の必要性があるというべきであって、本件配転命令が権利濫用に当たるということはできず、違法・無効ということもできないとしました。

2 降給

 一審判決は、人事評価制度が不合理であるとはいえないものの、そもそも原告が従事することができる業務が減少している中で原告の改造・製作の実績が少ないことをもって低評価とすることや、何らの根拠なく原告が問題行動をとっていたとして低評価とすることは不当であるとし、降給は人事権の濫用により違法・無効であるとして、差額賃金の請求を認めました。

控訴審判決・大阪高判令4.11.24労判1308.16

 大阪高裁も、一審判決の結論を維持しました。

最高裁判決

 最高裁は、配転命令の有効性につき判断しました。

 最高裁は、労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解されるとしました。

 そのうえで、原告と被告法人との間には、原告の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の合意があったというのであるから、被告法人は、原告に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかないとして、配置転換が権利濫用に当たらないとした大阪高裁の判断を破棄し、当該部分を大阪高裁に差し戻しました。

Follow me!