【解雇事件マニュアル】Q36均等法9条による婚姻・妊娠・出産等を理由とする解雇の禁止とは
(均等法9条)
① 略
② 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
③ 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
④ 略
(均等則2条の2)
法第九条第三項の厚生労働省令で定める妊娠又は出産に関する事由は、次のとおりとする。
一 妊娠したこと。
二 出産したこと。
三 法第十二条若しくは第十三条第一項の規定による措置を求め、又はこれらの規定による措置を受けたこと。
四 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十四条の二第一号若しくは第六十四条の三第一項の規定により業務に就くことができず、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと又は同法第六十四条の二第一号若しくは女性労働基準規則(昭和六十一年労働省令第三号)第二条第二項の規定による申出をし、若しくはこれらの規定により業務に従事しなかつたこと。
五 労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、若しくは同項の規定による休業をしたこと又は同条第二項の規定により就業できず、若しくは同項の規定による休業をしたこと。
六 労働基準法第六十五条第三項の規定による請求をし、又は同項の規定により他の軽易な業務に転換したこと。
七 労働基準法第六十六条第一項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により一週間について同法第三十二条第一項の労働時間若しくは一日について同条第二項の労働時間を超えて労働しなかつたこと、同法第六十六条第二項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により時間外労働をせず若しくは休日に労働しなかつたこと又は同法第六十六条第三項の規定による請求をし、若しくは同項の規定により深夜業をしなかつたこと。
八 労働基準法第六十七条第一項の規定による請求をし、又は同条第二項の規定による育児時間を取得したこと。
九 妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかつたこと又は労働能率が低下したこと。
(均等法12条)
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和40年法律第141号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
(均等法13条)
事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
②以下 略
(労基法64条の2)
使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。
一 妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後一年を経過しない女性 坑内で行われるすべての業務
二 略
(労基法64条の3)
使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺育等に有害な業務に就かせてはならない。
②以下 略
(女性労働基準規則2条)
② 法第六十四条の三第一項の規定により産後一年を経過しない女性を就かせてはならない業務は、前項第一号から第十二号まで及び第十五号から第二十四号までに掲げる業務とする。ただし、同項第二号から第十二号まで、第十五号から第十七号まで及び第十九号から第二十三号までに掲げる業務については、産後一年を経過しない女性が当該業務に従事しない旨を使用者に申し出た場合に限る。
(労基法65条)
使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
二 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
三 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
(労基法66条)
使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十二条の二第一項、第三十二条の四第一項及び第三十二条の五第一項の規定にかかわらず、一週間について第三十二条第一項の労働時間、一日について同条第二項の労働時間を超えて労働させてはならない。
② 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第三十三条第一項及び第三項並びに第三十六条第一項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
③ 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。
(労基法67条)
生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
② 使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない。
均等法9条2項は、女性労働者が婚姻したことを理由として解雇することを禁止している。
また、均等法9条3項は、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇することを禁止している。厚生労働省令で定める事由とは、①妊娠したこと(均等則2条の2第1号)、②出産したこと(同条第2号)、③均等法12条及び同法13条1項の健康確保措置を求めまたは受けたこと(均等則2条の2第3号)、④労基法64条の2第1号、同法64条の3第1項及び女性労働基準規則2条2項の坑内労働・危険有害業務の就業制限を求めまたは受けたこと(均等則2条の2第4号)、⑤労基法65条1項及び2項の産前産後休業を求めまたは受けたこと(均等則2条の2第5号)、⑥労基法65条3項の軽易業務への転換を求め又は受けたこと(均等則2条の2第6号)、⑦労基法66条の就労制限を求め又は受けたこと(均等則2条の2第7号)、⑧労基法67条の育児時間を求め又は受けたこと(均等則2条の2第8号)、⑨妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないことや労働能率が低下したこと(同条第9号)である。「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平18.10.11厚労告614号、以下「指針」という。)第4の3⑴は、「妊娠又は出産に起因する症状」とは、つわり、妊娠悪阻、切迫流産、主産後の回復不全等、妊娠又は出産したことに起因して妊産婦に生じる症状をいうとしている。
指針第4の3⑴によれば、均等法9条3項の「理由として」とは、妊娠・出産等と、解雇その他不利益な取扱いとの間に因果関係があることをいう。また、平27.1.23雇児発0123第1号は、上記指針について、妊娠・出産等の事由を契機として不利益取扱いが行われた場合には、原則として妊娠・出産等を理由として不利益取扱いがなされたと解され、ただし、イ①円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、②その業務上の必要性の内容や程度が、均等法9条3項の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在すると認められるとき、又は、ロ①契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、②当該事由及び当該取扱いにより受ける有利な影響の内容や程度が当該取扱いにより受ける不利な影響の内容や程度を上回り、当該取扱いについて事業主から労働者に対して適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば当該取扱いについて同意するような合理的な理由が客観的に存在するときについてはこの限りでないとしている。また、「契機として」については、基本的に当該事由が発生している期間と時間的に近接して当該不利益取扱いが行われたか否かをもって判断すること、例えば、育児時間を請求・取得した労働者に対する不利益取扱いの判断に際し、定期的に人事考課・昇給等が行われている場合においては、請求後から育児時間の取得満了後の直近の人事考課・昇給等の機会までの間に、指針第4の3⑵リの不利益な評価が行われた場合は、「契機として」行われたものと判断することとしている。当該行政解釈は、広島中央保健生協(C生協病院)事件・最一小判平26.10.23労判1100号5頁を受けて改正されたものである。
シュプリンガー・ジャパン事件・東京地判平29.7.3労判1178号70頁は、労働者が、平成26年8月から産前産後休暇を取得し、同年9月2日に出産後引き続き育児休業を取得した後、会社に対して復職時期等の調整を申し入れたところ、会社から退職勧奨され就労を認められず、出産から1年以上経過した平成27年11月に協調性不十分や職務上の指揮命令違反等を理由として解雇された事案である。同判決は、解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、均等法及び育休法違反に当たるとするものは相当でないとしつつ、他方で、事業主が解雇をするに際し、形式上、妊娠等以外の理由を示しさえすれば、均等法及び育休法の保護が及ばないとしたのでは、当該規定の実質的な意義は大きく削がれることになるなどとして、事業主が形式上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当であるとした。そして、労働者に対する解雇は、妊娠等に近接して行われており(会社が復職の申出に応じず、退職の合意が不成立となった挙句、解雇したという経緯からすれば、育休終了後8か月が経過していても時間的に近接しているとの評価を妨げない。)、かつ、客観的に合理的な理由を欠いており、社会通念上相当であるとは認められないことを、少なくとも当然に認識するべきであったとみることができるから、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、少なくともその趣旨に反したものであって無効であるとした。さらに、賃金支払等によって労働者の精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でないとして、会社に慰謝料50万円の支払を命じた。