【解雇事件マニュアル】Q37均等法9条4項の妊娠中・出産後1年以内の解雇の無効推定とは
(均等法9条)
①~③ 略
④ 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、使用者が当該解雇が同条3項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明しない限り、無効であるとしている。
「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平18.10.11雇児発第1011002号、平27.1.23雇児発0123第1号により改正)は、本条項について、妊娠中及び出産後1年以内に行われた解雇を、裁判で争うまでもなく無効にするとともに、解雇が妊娠、出産等を理由とするものではないことについての証明責任を事業主に負わせる効果があるものであり、このような解雇がなされた場合には、事業主が当該解雇が妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを証明しない限り無効となり、労働契約が存続することとなるものであるとしている。
すなわち、妊娠中及び産後1年以内になされた解雇は無効と推定され(同条4項本文)、使用者が妊娠出産等を理由とする解雇でないことを立証した場合にこの推定が覆される(同項ただし書)というものである(『注釈労基労契法3』192頁)。
では、どのような場合に、「事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明した」といえるか。
ネギシ事件・東京高判平28.11.24労判1158号140頁は、妊娠中に解雇された労働者について就業規則に定める解雇事由に該当し、当該解雇につき客観的合理的な理由がないとか、社会通念上相当として是認できないとかいうことはできず、解雇権の濫用に当たるものではないとした。そして、そのことから、当該解雇は、労働者が妊娠したことを理由としてされたものではないことを使用者が証明したといえるとして、均等法9条4項により解雇が無効となるものではないとした。なお、解雇の直前に労働者の妊娠が発覚したが、労働者は以後も雇用が継続されており、使用者が妊娠を理由として職員を解雇しようとしていたことは証拠上窺われないことも理由として挙げられている。
社会福祉法人緑友会事件・東京高判令3.3.4判時2516号111頁は、均等法9条4項ただし書について、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるとした。そして、労働者の出産後1年以内に行われた解雇について、客観的に合理的な解雇理由がなく解雇権の濫用に当たり無効であるとしたうえ、均等法9条4項にも違反するとした。同判決は、地位確認及びバックペイに加えて、慰謝料30万円の請求も認めた。アニマルホールド事件・名古屋地判令2.2.28労判1231号157頁〔確定〕も、妊娠中の労働者に対してされた解雇について、解雇権の濫用に当たり無効であるとしたうえ、慰謝料50万円の請求も認めた。
これらの裁判例に対しては、使用者が立証すべき事項が解雇権濫用法理(労基法16条)におけるものと同様であるとすると、労基法16条に加えて均等法9条4項が存在する意義が失われるといった批判もある(中窪裕也『判批』ジュリスト1515号126頁(2018)、『注釈労基労契法』193頁参照)が、前掲社会福祉法人緑友会事件が慰謝料請求を認めたように、単なる労基法16条違反の解雇に比べて、均等法9条4項違反の解雇がより悪質なものであるとはいえるだろう。