【解雇事件マニュアル】Q41育介法による相談や援助及び調停の申請を理由とする解雇の禁止とは

1 育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等(育介法25条)

(育介法25条)

 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 育介法25条1項は、使用者は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないとしている。

 「厚生労働省令で定める制度又は措置」とは、①育児休業、②介護休業、③子の看護休暇、④介護休暇、⑤所定外労働の制限の制度(育介法16条の8・16条の9第1項)、⑥時間外労働の制限の制度(同法17条・18条1項)、⑦深夜業の制限の制度(同法19条・20条1項)、⑧育児のための所定労働時間の短縮措置、⑨育児休業に準ずる措置又は始業時刻変更等の措置(同法23条2項)、⑩介護のための所定労働時間の短縮等の措置である(育介則76条)。

 『子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針』(平21.12.28号外厚生労働省告示第509号、以下「指針」という。)第2の14⑴ニ(ロ)は、労働者に対する制度等の利用に関する言動により就業環境が害される典型的な例として、以下のものが挙げられている。

① 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

 労働者が、制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したこと、制度等の利用の申出等をしたこと又は制度等の利用をしたことにより、上司が当該労働者に対し、解雇その他不利益な取扱いを示唆すること。

② 制度等の利用の申出等又は制度等の利用を阻害するもの

 客観的にみて、言動を受けた労働者の制度等の利用の申出等又は制度等の利用が阻害されるものが該当すること。ただし、労働者の事情やキャリアを考慮して、早期の職場復帰を促すことは制度等の利用が阻害されるものに該当しないこと。

 ⑴ 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を上司に相談したところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等をしないよう言うこと。

 ⑵ 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、上司が当該労働者に対し、当該申出等を取り下げるよう言うこと。

 ⑶ 労働者が制度等の利用の申出等をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等をしないよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む。)。

 ⑷ 労働者が制度等の利用の申出等をしたところ、同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に当該申出等を撤回又は取下げをするよう言うこと(当該労働者がその意に反することを当該同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む。)。

③ 制度等の利用をしたことにより嫌がらせ等をするもの

 客観的にみて、言動を受けた労働者の能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じるようなものが該当すること。 労働者が制度等の利用をしたことにより、上司又は同僚が当該労働者に対し、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等(嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと又は専ら雑務に従事させることをいう。以下同じ。)をすること(当該労働者がその意に反することを当該上司又は同僚に明示しているにもかかわらず、更に言うことを含む。)。

 また、指針第2の14⑶は、事業主が講ずべき措置の内容として、以下のものを挙げている。

① 方針等の明確化及びその周知・啓発

 ⑴ 職場における育児休業等に関するハラスメントの内容、育児休業等に関する否定的な言動が職場における育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景等になり得ること、職場における育児休業等に関するハラスメントを行ってはならない旨の方針、制度等の利用ができる旨を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

 ⑵ 職場における育児休業等に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則等の文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

② 相談(苦情を含む。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

 ⑴ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

 ⑵ 相談窓口担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。また、相談窓口においては、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあること等を踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも配慮しながら、職場における育児休業等に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、その発生の恐れがある場合や、職場における育児休業等に関するハラスメントに該当するか否か微妙な場合等であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。

③ 職場における育児休業等に関するハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

 ⑴ 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

 ⑵ 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行うこと

 ⑶ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

 ⑷ 再発防止に向けた措置を講ずること(事実確認ができなかった場合も同様)

④ 職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

 業務体制の整備など、事業主の制度等の利用を行う労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講ずること

⑤ ①~④の措置と併せて講ずべき措置

 ⑴ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること

 ⑵ 相談したこと、事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 育介法25条2項は、使用者は、労働者が前項の相談を行ったこと又は使用者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。

 「理由として」とは、労働者が育児休業等に関するハラスメントについて相談を行ったことや事業主の相談対応に協力して事実を述べたことが、事業主が当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいう(『実務コンメ均等法等』298頁)。

 均等法11条2項と同様、解雇が、労働者が育介法25条1項の相談を行ったこと又は使用者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として同条2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。

2 都道府県労働局長による紛争の解決の援助(育介法52条の4)

(育介法52条の4)

 都道府県労働局長は、前条に規定する紛争に関し、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができる。

2 第二十五条第二項の規定は、労働者が前項の援助を求めた場合について準用する。

 育介法52条の4第1項は、同法52条の3が定める一定の事項(育児休業等)についての労働者と使用者との間の紛争について、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者からその解決につき援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができるとしている。

 そして、同法52条の4第2項は、同法25条2項を準用し、使用者は、労働者が同法52条の4第1項の援助を求めたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。

 均等法11条2項と同様、解雇が、労働者が育介法52条の4第1項の援助を求めたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として同条2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。

3 紛争調整委員会による調停(育介法52条の5)

(育介法52条の5)

 都道府県労働局長は、第五十二条の三に規定する紛争について、当該紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第六条第一項の紛争調整委員会に調停を行わせるものとする。

2 第二十五条第二項の規定は、労働者が前項の申請をした場合について準用する。

 育介法52条の5第1項は、同法52条の3が定める一定の事項(育児休業等)についての労働者と使用者との間の紛争について、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認められるときは、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律6条1項の紛争調整委員会に調停を行わせるとしている。

 そして、育介法52条の5第2項は、同法25条2項を準用し、使用者は、労働者が同法52条の5第1項の調停の申請をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないとしている。

 均等法11条2項と同様、解雇が、労働者が育介法18条1項の調停の申請をしたことを契機として行われたと認められる場合には、原則として同条2項の禁止する解雇に当たるものと解され、違法・無効もしくは不法行為に該当し損害賠償の対象となり得るだろう。

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