Case546 自由な意思論に基づき既に更新に対する合理的期待が生じた後に定められた更新上限規定によって合理的期待が消滅したとはいえないとされた事案・放送大学学園事件・徳島地判令3.10.25労判1315.71
(事案の概要)
原告労働者は、平成18年4月から1年間の有期雇用契約で被告法人において事務員として働き、平成30年3月まで11回契約を更新してきました。
被告法人は、平成25年3月、同年4月1日において再雇用される者の契約期間は、同日から通算して5年を超えることができないとの本件上限規定を定め、原告の雇入通知書にも更新回数は本件上限規定による旨記載するようになりました。
被告法人は、平成30年3月、上記基準を理由に原告を雇止めしました。
本件は、原告が被告法人に対して、労契法19条2号による雇止めの無効を主張し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、労契法19条2号の契約更新を期待する合理的な理由の有無を判断するに当たっては、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用契約の更新に対する期待をもたせる使用者の言動の有無などの客観的事実を総合考慮することが相当であるとしました。
そのうえで、更新の回数及び雇用の通算期間は、本件上限規定が定められた平成25年3月の時点でも、相当多数回かつ長期間に及んでいたとしました。また、特に平成24年度までの間は、事務長から5~10分程度簡単な更新の意思確認を受け、その希望次第で更新することができていたのであって、その更新手続自体が、原告に雇用契約の更新に対する期待をもたせるようなものであったとしました。そして、原告の業務に常用性もあること、本家に雇止めに至るまで他の時間雇用職員が雇止めされたことがないことを併せて考慮すると、原告には平成25年3月時点で、既に雇用契約が更新されるものと期待する合理的な理由があったとしました。
判決は、平成25年度から雇入通知書に本件上限規定の適用が記載されるようになったことについて、有期労働契約における労働者、特に、本件上限規定が定められた時点で、相当回数にわたって、契約が更新されてきた原告にとって、今後の更新可能回数を制限することが労働条件の不利益変更に当たることは明らかであるところ、一般に、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、更新可能回数を制限する本件上限規定や不更新条項といった不利益な変更は、たとえ、これらが雇入通知書に記載され、これに対して労働者が具体的に異議を述べていなかったとしても、その事実のみで、当該労働者が承諾したとみるべきではなく、当該労働者の自由な意思に基づいて承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきであり、そのような事情を踏まえて、雇用契約が更新されることについての合理的な理由が消滅したかを検討すべきであるとしました。
そして、本件上限規定や雇入通知書の記載によっても、原告が自由な意思に基づいて、これらを承諾したうえで平成25年以降の契約更新に及んだと認めるに足りる客観的に合理的な理由があるとはいえず、雇用契約が更新されることについての合理的な期待が消滅したとはいえないとし、本件雇止めを無効としました。
※控訴後和解