【解雇事件マニュアル】Q52試用期間満了前に留保解約権を行使して解雇することは許されるか
試用期間と関係なく、試用期間中に労働者に通常の解雇事由や懲戒解雇事由が生じた場合には、試用期間中の解雇も当然許されるであろう。この場合の解雇は、試用期間により留保された解約権の行使によるものではない。
では、使用者が、定められた試用期間の満了を待たずに、試用期間中に留保された解約権を行使して、通常の解雇の場合よりも緩やかに労働者を解雇することは許されるか。
この点、多くの裁判例が試用期間中の留保解約権の行使を認めている。日本基礎技術事件・大阪高判平24.2.10労判1045号5頁は、6か月の試用期間のうち4か月弱経過時点で行われた留保解約権の行使につき、「今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえる」などとして、留保解約権の行使としての解雇を有効としている。水町『詳解労働法』504頁も、「試用期間の途中までの観察で労働者としての能力・適格性の欠如が明らかでありその後改善される可能性もないという場合等においては、試用期間の満了を待たずに解約権を行使(解雇)しても、本採用の可否を決定するための適格性観察期間という試用期間の趣旨に反するとまではいえないだろう」としている。
もっとも、本採用の可否の判断は、あくまで試用期間満了時点において行われるものであるから、試用期間中に労働者の適格性を疑わせる事情があったとしても、試用期間満了時までに改善する余地がある場合には、留保解約権の行使による解雇は無効と判断され得るであろう。ニュース証券事件・東京高判平21.9.5労判991号153頁は、「6か月の試用期間の経過を待たずして控訴人〔使用者〕が行った本件解雇は、より一層高度の合理性と相当性が求められるというべきであ」り、試用期間途中の留保解約権行使は「試用期間を定めた合意に反して控訴人の側で試用期間を被控訴人〔労働者〕の同意なく短縮するに等しいものというべきであって、被控訴人が業務上横領等の犯罪を行ったり,控訴人の就業現則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど,試用期間の満了を待つまでもなく被控訴人の資質,性格,能力等を把握することができ,控訴人の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められる」場合でなければ許されないとした。また、医療法人財団健和会事件・東京地判平21.10.15労判999号54頁は、試用期間満了まで20日間程度を残す時期にされた留保解約権の行使について、残りの試用期間を勤務することによって労働者の勤務状況等が使用者が求める水準に達する可能性があったなどとして、解雇すべき時期の選択を誤ったものであるとして無効とした。