【解雇事件マニュアル】Q53試用期間中の解雇が無効になった場合残りの試用期間はどうなるか
例えば、3か月の試用期間のうち2か月経過時点でなされた解雇が判決で無効とされた場合、口頭弁論終結時点では既に本来の試用期間を経過しているものと思われる。この場合、労働者は試用期間を満了したことになるのか、それとも無効な解雇により中断された残り1か月の試用期間が再開されることになるのか。
菅野ら『労働法』276~277頁は、解約権留保付き労働契約という試用契約の性質上、解約権の適法な行使がなされずに試用期間が経過した以上本採用がなされたものとして正規従業員の法的地位を確認するのが原則であるとしている(水町『詳解労働法』507頁も同旨)。裁判例の多く(例えば、三洋海運事件・福島地いわき支判昭59.3.31労判429号22頁)もこのことを当然の前提としているように思われる。
もっとも、三愛作業事件・名古屋高決昭55.12.4労民31巻6号1172頁は、3か月の試用期間のうち38日経過時点でされた解雇が無効とされた事案であるが、労働者が労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求めたのに対して、決定は、労働者が決定告知の日から残りの試用期間である53日間試採用者としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるとした。当該決定は、その理由について「試用期間が設定された趣旨は、試用期間中の作業実績を基礎として職業能力及び業務適性を調査判定することを目的とするものであるから、右試用期間の相当期間について就業実績をもち、実質的に残余期間を問題とすることなく本採用の当否が判断できる場合はともかくとして、本件のように、試用期間三か月のうち、採用後就業日数三八日にして解雇されたものとして取扱われ、残余試用日数五三日を残し、試用期間の大半について就業実績のないものについては、使用者が、当初の試用期間内に本採用への選考を実施しなかつたこと、或いは解雇を理由に抗告人の就労を拒否したことを直ちに違法とし、又は抗告人の職業能力及び業務適性の判定権を放棄したとみることはできず、結局右試用期間の取扱いについては、右解雇の日から本裁判告知の日まで試用期間の進行を停止していたものとして取扱うのが相当と考えられる。」としている。当該決定は、試用期間の大半について就業実績がなく、作業実績を基礎とした就業能力及び業務適性の調査判定ができないという特殊事情を考慮したものであると思われるが、あえて試用期間途中に違法無効な解雇をして労働者を就労させなかったのは使用者の責任であるから、労働者を再び不安定な地位に置くことは妥当でないと思われる。