【解雇事件マニュアル】Q54試用期間の長さに制限はあるか
菅野ら『労働法』270頁によると、試用期間は3か月が最も多く、それを中心に1か月から6か月に渡っている。試用期間について規制する法令はなく、その長さは各使用者の就業規則等に委ねられている。
もっとも、試用期間の一部が無効とされた裁判例がある。ブラザー工業事件・名古屋地判昭59.3.23労判439号64頁(仮処分)は、約1年間「見習社員」として雇用され「試用者社員登用試験」に合格して「試用社員」となった労働者が、更にその1年後に「社員登用試験」に不合格であるとして解雇された事案において、見習社員の期間及び試用社員の期間がいずれも試用期間に該当するとしたうえ、「一般に、試用期間中の留保解約権に基づく解雇については本採用後の通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が認められるものと解されているから、試用期間中の労働者の地位は本採用後の労働者の地位に比べて不安定であるというべきである」から、「労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であると解するのが相当である。」とした。そして、「見習社員としての試用期間(最短の者で六か月ないし九か月、最長の者で一年ないし一年三か月)中に「会社従業員としての会社における業務に対する適性」を会社が判断することは充分可能であり、実際にも会社は右期間中に右適性をも判断しているのであるから、会社が見習社員から試用社員に登用した者について更に六か月ないし一年の試用期間を設け、筆記試験がないほかは試用社員登用の際の選考基準とほぼ同様の基準によつて社員登用のための選考を行なわなければならない合理的な必要性はないものというべきである。従つて、少なくとも女子の現業従業員の場合、見習社員が最終的に社員に登用されるために経なければならない見習社員及び試用社員としての試用期間のうち、試用社員としての試用期間は、その全体が右の合理的範囲を越えているものと解するのが相当である。」として、試用社員としての試用期間を全て無効とし、労働者が試用社員に登用された時点で正規従業員の地位を取得していたとした。
また、リーディング証券事件・東京地判平25.1.31労経速2180号3頁は、1年間の有期労働契約に付された6か月の試用期間のうち3か月を超える部分を無効とした。
このように合理的理由(必要性)なくあまりにも長い試用期間を設けることは、公序良俗違反となり得るとされている(菅野ら『労働法』276頁)。