【解雇事件マニュアル】Q57試用期間延長には使用者の明示の意思表示が必要か
試用期間の延長の要件として、使用者が労働者に対して試用期間の延長の意思表示をすることが必要であるとされている(白石『労働関係訴訟の実務』452頁)。この試用期間の延長の意思表示は、試用期間満了前に明示的にされる必要があるのか。使用者が黙示に試用期間を延長することが許される場合はあるのだろうか。
この点、大同木材工業事件・松江地判昭46.10.6判タ279号270頁は、就業規則に「新たに雇入れられた従業員には6か月以内の試用期間を置く。但し本採用規程に合格できない者は更に延長することができる。」との定めがあり、使用者が「原告が同僚・上司らとの協調性に乏しく業務習得の熱意と責任感を欠いていたので、試用期間の満了日である昭和四五年一月六日当時既に原告が被告会社の従業員として不適格であると判断していたが、被告会社のような中小企業では人手不足の折柄工員を新規採用するのが仲々困難であつたので、その後原告の勤務態度が改り、被告会社の工員としてふさわしい人物になつたときは本採用にしようと考え、原告に対し就業規則に基づく試用期間の延長を告知せず引続き勤務させてその行動を観察していた」という事案において、使用者が黙示による試用期間延長の意思表示をしたと認定した。しかし、延長された試用期間の終期も特定されておらず、なぜこのような場合に黙示による試用期間延長の意思表示が許容されるのか不明である。
一方で、上原製作所事件・長野地諏訪支判昭48.5.31労判181号53頁は、就業規則に「3か月間の試用期間は人物判定の都合上延長することがある。」との定めがある事案で、貸家が、会社における運用によれば、試用期間3か月を経過するにあたり、本採用にする旨の意思表示のない限り、たとえ試用期間を延長する旨の意思表示がなくても、当然試用期間が3か月間延長(更新)されることになっていると主張したが、判決は、「試用期間の延長は、従業員を不安定な地位に置くことを継続するものであるから厳格に解されなければならないことに徴してその延長する旨の意思表示の告知の要否も右観点から同様に厳格に解するのが相当であるところ、〈証拠〉によれば、被告の就業規則等には「試用期間満了日において期日延長の意思表示のなされない場合は、同一条件の試用が継続するものとする。」旨の規定の存しないことを認めることができる。このように就業規則等にも明規されていない被告の主張するごとき従業員(試用員)にとつて極めて不利益な取扱を有郊であるとして是認するならば、従業員の権利は、甚だしく侵害されることになり、被告の一方的措置を許すことになるので、被告の主張にかかる前記運用方法は、〈証拠〉により明らかなとおり本採用者と試用者につき同一の就業規則で規定している被告会社にあつては、……就業規則等にその旨明規されるべき性質のものであると解するのが相当である。かかる見地から就業規則等に「試用期間満了日において期間延長の意思表示のなされない場合は、同一条件の試用が継続するものとする。」旨明規されていて、試用期間延長の意思表示の告知に関し労使間でその旨円満に合意されている場合は格別(もつとも右のごとくその旨明規されている場合であつても、その延長される期間等その規定内容いかんによつては、解雇保護規定の脱法行為ないしは公序良俗違反の観点から慎重な検討を要する場合もあろう。)その旨の規定を欠く場合には試用期間の延長の意思表示の告知を要するということは当然の前提とされているというべく、したがつて、前叙のごとき被告における試用期間を延長する旨の決定は、いまだ被告会社の内部的決定すなわち被告会社における内部的意思表示の存在を意味するにすぎないから、これを当該従業員に告知しなければ外部的に成立し、有効なものとはならないと解すべきである。」として試用期間の延長を認めなかった。
上記裁判例に照らすと、少なくとも、使用者による黙示の試用期間延長が認められるためには、別段の意思表示がない限り試用期間が自動的に延長されることや、延長される試用期間の長さなどがあらかじめ就業規則等に定められており、労働契約の内容になっていることが必要であろう。そのような規定がない場合には、使用者による試用期間の延長の意思表示は試用期間満了前に明示的にされる必要があり、延長の意思表示なく試用期間を経過した場合には、労働者は本採用されたものと解すべきである。