【解雇事件マニュアル】Q61試用期間満了前の本採用拒否を無効とした近時の裁判例は

1 ニュース証券事件東京高判平21.9.15労判991号153頁

 他の証券会社の営業職として約7年間勤務していた原告(被控訴人)労働者は、証券会社である被告(控訴人)会社に、試用期間を平成19年5月21日から6か月間として雇用され、営業担当部署である「ウエルスマネージント本部」課長として勤務していた。会社は、同年9月3日、原告の3か月間の手数料収入が自己の給与分にも達しておらず営業担当としての資質を欠くなどとして、原告を即日解雇した。

 判決は、本件雇用契約書には、の本件雇用契約におおける原告の試用期間を6か月とする規定が置かれているところ、試用期間満了前に、会社はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから、原告と会社との間で、原告の資質、性格、能力等を把握し、会社の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきであり、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずして会社が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきであるとした。

 そして、原告の手数料収入は高いものとはいえないが、原告と会社との間では、原告の資質、性格、能力等を把握し、会社の従業員としての適性を判断するために6か月の試用期間を定める合意が成立しているのであって、会社がわずか3か月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、能力等が会社の従業員としての適格性を有しないとし判断して本件解雇をすることは、試用期間を定めた合意に反して会社の側で試用期間を原告の同意なく短縮するに等しいものというべきであって、原告が業務上横領等の犯罪を行ったり、会社の就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、試用期間の満了を待つまでもなく原告の資質、性格、能力等を把握することができ、会社の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、合意した試用期間である6か月間における原告の業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないで会社が行った本件解雇は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができないとして、本件解雇を無効とした。

2 医療法人財団健和会事件・東京地判平21.10.15労判999号54頁

 原告労働者は、被告法人が運営する病院に、試用期間を平成19年2月1日から3か月間として総合事務職として採用された。法人は、同年4月10日、「事務能力の欠如により、常勤事務としての適性に欠ける」ことを理由に、同月12日付けで原告を解雇した。

 判決は、原告には多数の事務処理上のミスや不手際があり、これらはいずれも、正確性を要請される医療機関においては見過ごせないものであり、原告の本件病院における業務遂行能力ないし適格性の判断において相応のマイナス評価を受けるものであり、法人の教育・指導が不十分であったということもできないとした。

 しかし、原告は、同年3月9日の上長との第1回面接において、入力ミス等を厳しく指摘され、同月23日の第2回面接までの間に、入力についてはその都度3回の見直しをするなどの注意を払うようになったため、少なくとも入力についてのミスが指摘されることはなくなり、周りの職員に対する気配りも一定程度するようになるなど、業務態度等に相当程度の改善が見られていた。第2回面接においては、上記改善が確認されたものの、原告が未だ法人が常勤事務職員として要求する水準に達していないとの点が厳しく指摘され、原告は一度は退職する意向を示したものの、同月26日の事務長らとの面談の結果、退職せずに、引き続き試用期間中は、健康管理室で勤務し、その間の原告の勤務状況を見て、法人の要求する常勤事務職員の水準に達するかどうかを見極めることとなった。もっとも、原告は、同月29日に具合が悪くなり、その後出勤せず、「退職脅迫等違法行為を受けたことによる体調不良のため」として法人に休職を求めていた。

 判決は、法人は、上記の経緯があるにもかかわらず、同月28日に事務長らからそれまでの事実経過等を聴取したにとどまり、直属の上司から原告の勤務態度、勤務成績、勤務状況、執務の改善状況及び今後の改善の見込み等を直接に聴取することもなく、また、勤務状況等が改善傾向にあり、原告の努力如何によっては、残りの試用期間を勤務することによって法人の要求する常勤事務職員の水準に達する可能性もあるのに、さらに、原告から、同月25日に理事長に宛てて退職強要や劣悪な労働環境を訴えた手紙が送付され、次いで、同年4月4日から6日にかけて全日本民主医療機関連合会会長その他に宛てて、法人のパワハラ等を訴える手紙が送付されたのであるから、法人から原告に対し、これらの手紙の内容が誤解であるならばその旨真摯に誤解を解くなどの努力を行い、その上で職務復帰を命じ、それでも職務に復帰しないとか、復帰してもやはり法人の要求する常勤事務職の水準に達しないというのであれば、その時点で採用を取り消すとするのが前記経緯に照らしても相当であったというべきであり、加えて、第2回面接があった同年3月23日の時点では上長らは原告を退職させるとは全く考えていなかったことも併せ考えれば、試用期間満了まで20日間程度を残す同年4月10日の時点において、事務能力の欠如により常勤事務としての適性に欠けると判断して本件解雇をしたことは、解雇すべき時期の選択を誤ったものというべく、試用期間中の本採用拒否としては、客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められず、無効というべきであるとした。

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