【解雇事件マニュアル】Q62試用期間満了前の本採用拒否を有効とした近時の裁判例は
1 アクサ生命保険ほか事件・東京地判平21.8.31労判995号80頁
原告労働者は、生命保険事業を行う被告会社に、試用期間を平成19年5月1日から同年10月31日までの6か月間として中途採用された。
被告会社は、平成19年9月26日、原告が平成18年にJ社で正規社員として終業した事実及び当該会社係争中である事実を被告会社に伝えていないことが経歴詐称に当たるとして平成19年9月30日付けで原告を解雇した。
判決は、原告は、被告会社入社時までに、原告が平成18年3月27日にJ社に正社員として就職したという認識であったこと、同年4月14日付けで同社から解雇されたことに関し同社との訴訟が係属した又は係属しているのにこれを被告会社に提出した履歴書に記載しなかったこと、また、被告会社との3度の面接でも平成18年3月以降の就労状況を質問されても「フリーランス」と答えるのみで具体的に明らかにしない対応をとっていたことが認められるところ、少なくとも、原告において、平成18年3月までの金融機関での勤務の告知に比べ、それ以降から被告会社就職までの間の就労状況については、意図的に曖昧に回答しているといわざるを得ないとした。そして、以前の会社と係争中であるかどうかは、採用にあたって申告すべき事項とまではいい難いけれども、採用する側にとっては採否を考慮する上での重要な事実であることは否定し難く、原告も、そのことを了解していたからこそ、被告会社にJ社での勤務の事実を明らかにしないことで、被告会社の同社への関心をそらし、被告会社による同社との係争中の事実の調査の端緒を与えなかったものといえるとした。
そうすると、J社に正規社員として雇用された事実が必ずしも明らかではなく、また同社との係争の事実が経歴に含まれないとしても、同社への就職及び解雇の事実を明らかにしなかったことは、金融機関における業務経験とインベストメント・プロジェクトの管理・運営等の業務に対する高度の知識を求めて求人を行っていた被告会社が原告の採否を検討する重要な事実への手掛かりを意図的に隠したものとして、その主要部分において、「経歴詐称」と評価するのが相当であるとした。
また、原告は、担当する業務の企画ができなかったり、不相当な記載をしたプレゼンテーション資料を作成するなど芳しくない勤務態度が認められるし、上司との中間レビュー面談、研修への参加辞退の要請に関し、過剰な反応を示していることとも併せ、上司や同僚ともコミュニケーションがうまくいっていなかったことが推認できるとした。
さらには、「Hジャパン」なる肩書きを付して自宅住所を業務上の住所として副業と見られる活動を行っていたり、平成19年8月30日ころには被告会社の社員であったにもかかわらず他社に転職を目的として接触を開始しており、すでに被告会社での勤務の意欲を失っていたともいえるとした。
加えて、原告は、自宅のパソコンのデータのバックアップのためと称して自宅から大量のデータを添付したメールを被告会社のパソコンに送ったり、被告会社から自宅のパソコンに送信することを繰り返していた上、自分の興味のあるインターネット上のホームページのURLを会社のパソコンで閲覧し、さらに自宅でも閲覧を続けるために、前記URLを貼り付けた電子メールを作って自宅に送付していたのであり、原告が職場で業務に専念せず自己の利益を求める行為を行っていたというほかなく、この行為は、電話や私書に代えて、会社の業務上のアドレスを使って会社内外の者と私的なメールの送受信をするという範疇を超えているとした。
以上より、原告について、就業規則上の「試用期間中の者が、不適格と判断されたとき」に該当する事由があり、本件解雇も解雇権の濫用とはいえないとした。
判決は、なお、本件解雇の決定に当たって原告から聴取等を行わなかったこと及び試用期間満了を待たずに本件解雇に及んだことは、本件解雇が試用期間中に行われた通常解雇(本採用拒否)であることからすると、前記判断を左右しないとした。
2 日本基礎技術事件・大阪高判平24.2.10労判1045号5頁
原告労働者は、平成20年3月に大学を卒業し、建設コンサルタント等を行う被告会社に、試用期間を同年4月1日から同年9月末日まで、職種を技術社員として新卒採用された。
会社は、同年7月29日、同月31日付けで原告を解雇する旨の意思表示をした。解雇理由は、①慢性的な睡眠不足等に起因する注意力の低下により重大事故を引き起こす危険が相当の蓋然性をもって認められること、②作業能力及び時間管理能力が欠如していること、③規範意識が欠如していることであった。
判決は、会社の技術社員は、チームを組んで危険な場所や危険な機械を扱ったりすることから最低限の資質や能力として安全配慮能力と基本的な危険予知能力が必要とされ,また,定められたことを遵守し,また,時間管理の能力が必要とされるとした。もっとも,原告は,大学を卒業して会社に入社した新卒者であって,入社当初から会社の技術社員として備えるべき上記各能力を具備していることまでは想定されていないことはいうまでもなく、会社は,そのため全体研修,機械研修,現場研修を通して少なくとも技術社員として必要な程度の上記各能力を身につけさせるための教育を行うこととしていたとした。
そして、原告は,入社当初の4月,全体研修の中の1か月の期間にチームで作業を行う場合や危険な機器類を扱う場合に最低限守るべきことに違反した事象を3件起こしており、また,機械研修に入って2か月半を経過した後の7月24日にも同様,危険な機器類を扱う場合に最低限守るべきことに違反した事象を起こしており、上記いずれの事象も原告ないし原告の周りにいる者に対して身体や生命に対する危険を有する行為であって看過することができない行為であるとした。
また、原告は,全体研修のみならず機械研修に入った以降も周りのことに意識がいかなかったり,また,自己のこだわりなどから定められた時間を守ることができないことも多く、特に,研修日誌の提出については指導員などから再三にわたって時間内に提出するよう注意を受けていたが,時間意識が薄く,守れないことも多かったとした。また,原告は,全体研修時,遅れた時間が僅かとはいえ,規則に反して3日連続で門限に遅れることがあり,また,全体研修,機械研修を通じて,集団生活で,危険な作業を行うことから身体を休める必要があるとして定められた消灯時間を守れないことも少なからずあったとした。
以上の事実を踏まえると,会社が原告の上記時間に係わる行動を踏まえて,原告の時間に対する意識について,疑問を抱き,改善の可能性について難しいと判断したこと,また,規則を守るべきとの意識についても,疑問を抱き,改善の可能性について難しいと判断したことには相当の理由があるといわなければならないとした。
さらに、原告は,全体研修期間全体を通じて睡眠不足が目立ち,指導員から度々注意されていたが,改められることがなく、機械研修に入った後も指導員から度々注意されていたが,改められることがあまりなく、研修も4か月目に入った7月に入ってようやく少しは改められたところがあったが,改善と言うまでの状況ではなかったとした。
そして、会社の技術社員という職責を踏まえると,睡眠不足は,個々の作業での集中力の低下をもたらすものであって,現に,原告は,全体研修,機械研修を通じて睡眠不足による集中力の低下を指摘されているところ,それは危険の顕在化をもたらすものであるというベきであるとした。
また,原告は,5月8日には玉掛技能講習の参加に当たって,会社から他の新入社員の引率を任されていた集合時間に遅れ,同新入社員からの電話連絡にも応答しないという状況であったとした。
以上の事実を踏まえると,会社が原告の睡眠不足,それに伴う集中力の低下について,疑問を抱き,改善の可能性について難しいと判断したことには相当の理由があるといわなければならないとした。
そして、判決は、4か月弱が経過したところではあるものの,繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく,睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいえない状況であるなど研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり,今後指導を継続しても,能力を飛躍的に向上させ,技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえるから,本件解雇は新卒者に対する解雇とはいえ,解雇権の濫用があったものとまでは認められず,かえって,解雇の相当性が認められるといわなければならないとした。
3 キングスオート事件・東京地判平27.10.9労経速2270号17頁
原告労働者は、自動車販売等を行う被告会社に、試用期間を平成26年1月1日から同年3月31日まで、職務内容を経理・財務・人事・総務・貿易事務の統括業務、役職を管理部シニアマネージャー、年俸を730万円として中途採用された。
会社は、同年2月21日の取締役会において、原告の本採用拒否を決定し、同月25日に原告にその旨伝えて退職勧奨をし、同月27日、原告を同年3月31日付けで解雇する旨の意思表示をした。解雇理由は、業務遂行能力の欠如(単純なインプット作業が理解できない)及び勤務態度(インターネットでデリバリーヘルスのサイトを閲覧し女性従業員から苦情が出された)である。
判決は、原告には管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ、十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業を適切に行うことができないなど、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと、原告のインプット作業により従業員らの業務が停滞して苦情が出され、インターネット閲覧についても女性従業員から苦情が出されるなど、会社の業務に支障が生じていたこと、前任者として原告に引き継ぎ、指導を行うべき者が平成26年2月末には出向解除により他社に戻る予定であり、上記のような状態で原告が管理部のシニアマネージャーになれば、原告が適切に管理部の統括業務を遂行することができず、管理部の業務により大きな支障が生じるおそれがあると判断されてもやむを得ない状態であったこと、会社の規模や原告の採用条件によれば配置転換等の措置をとるのは困難であったと認められること、原告は当時試用期間中であり、インプット作業の問題について繰り返し指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったとはいえないこと等の事情も考慮すると、本件解雇が試用期間の経過を待たずに決定されたものであること、原告が同年2月22日に抑うつ状態と診断されていること等、原告が主張する事情を考慮しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとは認められないとして、解雇を有効とした。
4 まぐまぐ事件・東京地判平28.9.21労経速2105号13頁は、
原告労働者は、メールマガジン配信サービスの運営等を行う被告会社に、試用期間を平成27年2月10日から同年8月9日までの6か月間として雇用され、経営企画部に配属された。会社は、同年4月10日に原告に対して退職勧奨を行い、同日以降の自宅待機を命じ、同年6月5日付けで原告を解雇した。解雇理由は「上司・同僚に対して失礼な言動を繰り返し、かつ、協調して業務を遂行することができない。また、取引先との関係でも上記同様の態度を採り顰蹙を買った。なお、これらについて、注意喚起を行ったが改善は認められず、注意を受けた直後に欠勤に及ぶ等、貴殿の資質、勤務態度及び健康状態から本採用困難であると判断した。」というものである。
判決は、原告は、入社当初から、上司Aの事前の了解を得ることなく□□カフェを単独で訪問したり、平成27年3月3日には、営業部員に対して、Aの了解を得ずに、営業資料や顧客情報リスト、マニュアル類等の開示を求めるメールを一方的に送信するなどの独断行動に出て、上司や他部署の従業員との間であつれきを生じさせたており、会社組織の一員として要求される基本事項、すなわち上司の指揮命令の下で、必要事項を上司に報告し、了解を得た上で業務を行うという姿勢や、周囲の者に対する配慮に欠ける面があったとした。
また、原告は、上司の指示に対して素直に従わず、自らの主張に拘る面があり、入社当初の健康保険の切替え手続に関しても、Bから速やかに手続を進めるように指示があったにもかかわらず、前職の健康保険を継続したいなどと不合理な主張をして、健康保険の切替え手続を遅滞させたとした。
さらに、原告は、新規の有料メールマガジン発行候補者との打合せや広告業務の外部委託先であるDとの打合せの場において、新入社員という自らの立場やその場の状況を踏まえない不適切な発言を行い、取引先々同僚を困惑させる結果を生じさせたとした。
そして、AやBらから原告による上記の言動の報告を受け、代表者は、原告が上司や同僚との間にあつれきを生じさせたり、取引先との打合せで不適切な発言をしたりしていることを懸念し、平成27年3月20日の面談で原告に対し、原告のコミュニケーション能力の乏しさを指摘し、周囲と協調性をもって行動することや、他者の信頼を得るよう努力するよう指導したが、かかる指導にもかかわらず、原告は、面談のわずか4日後の同月24日、総務部長のBから、情報セキュリティの観点から私物パソコンの使用を止め会社貸与のパソコンを使用するように指示を受けるも、あれこれと理由を付けて素直に従わず、その結果Bと口論する結果を招き、また、4月6日、有料サロン事業の企画概要を簡潔にまとめるようにというAの指示を無視し、詳細な内容の本件企画書を作成してAに提出し、Aを困惑させたとした。
判決は、以上のように、原告には上司の指導や指示に従わず、また上司の了解を得ることなく独断で行動に出るなど、協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動により取引先や同僚を困惑させることなどの問題点が認められ、それを改めるべく代表者が指導するも、その直後に再度上司の指示に素直に従わないといった行動に出ていることに加え、上記の問題点に対する原告の認識が不十分で改善の見込みが乏しいと認められることなどを踏まえると、試用期間中の平成27年4月10日の時点において、会社が「技能、資質、勤務態度(成績)若しくは健康状態等が劣り継続して雇用することが困難である」(就業規則)と判断して、原告を解雇したことはやむを得ないと認められ、本件解雇には、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当というべきであるとした。
5 ヤマダコーポレーション事件・東京地判令元.9.18労経速2405号3頁
システムエンジニアである原告労働者は、被告会社に、試用期間を平成29年9月16日から同年12月15日までの3か月間として、係長クラスの社内情報システム管理者として中途採用された。
会社は、平成29年11月30日、原告が部下Aに対して必要以上に威迫した行動を取ったこと、及び原告の言動により取引先Bに対して関係修復が困難な状況が発言していること等を理由に、同日付けで原告を解雇した。
判決は、原告のAに対する威迫した行動について会社の主張を全面的には採用し難いとしつつ、少なくとも、原告が、平成29年10月31日、「これはあなたの仕事なの」と詰問調で述べたり、社外での打合せに際し、Aに十分な情報共有をしていなかったことに加え、Aが、経営企画室において原告との勤務を継続することが困難であることを課長に相談し、相模原工場に異動となったことなどからすれば、原告とAの関係においては、業務遂行に当たり相当程度の軋轢ないし業務上の支障が客観的に生じていたといえること、その背景には、Aに対して適切な監督及び業務指導を行い、業務を円滑に遂行すべき係長の立場にあった原告の対応にも一因があることがうかがわれ、その限度においては、会社が主張する原告の協調性のなさ及び上司や部下に対する勤務態度の問題が存在し、管理職たる適格性に疑問を生じさせる一事情として評価することができるとした。
また、Bとのトラブルについて、パワー・ハラスメントとして違法性が認められる事情とまでは一概に評価できないものの、Bの担当者からは、原告との一連のやりとりについて、会社として明示的な抗議を受けていること、その後、会社関係者が、原告の対応について、Bに謝罪に出向いていることからすれば、少なくとも、原告の行為は、会社とBとの間での軋轢ないし関係修復が困難な状況を発現させたものと評価するのが相当であり、このような事態に陥ったのは、結果的には原告の対応が原因であったと認められるとした。
さらに、原告は、上記以外にも、勤務態度等の問題から、所属する経営企画室のみならず、生産部購買課や営業部等の他部署との関係においても、軋轢を生じさせたことが認められ、これらは、同様に、原告の協調性や管理職としての適格性に疑問を生じさせる事情であるということができるとした。
上記検討によれば、原告には協調性に欠ける点や、配慮を欠いた言動等により、会社の社内関係者及び取引先等を困惑させ、軋轢を生じさせたことなどの問題点があり、会社の指導を要する状態であったと認められ、そして、試用期間中の解雇は、本採用後の解雇より広汎に許容されることに加え、試用期間が3か月間と設定され、時間的制約があることにも鑑みれば、比較的短期間に複数回の指導を繰り返すことを求めるのは、使用者にとって必ずしも現実的とは言い難いところ、現に、原告の上司が、入社から2か月目面談の実施まで、原告の上記問題点を改めるべく、機会を捉えて原告に対する相応の指導をするも、それに対する原告の反応や態度等を踏まえると、上記問題点に対する原告の認識が不十分であるか、原告が指導に従う姿勢に欠ける等の理由で、改善の見込みが乏しい状況であったことが認められるとした。さらに、原告のITの専門家としての経歴及び会社における採用条件や職務内容、原告と他部署との関係等を考慮すると、会社において、原告について配置転換等の措置をとるのは困難であり、かつ、前述した原告の問題点は、配置転換をすることにより改善が見込まれる性質のものでもないこと、会社が主張する解雇事由は、結局のところ、原告の勤務に臨む姿勢や態度といった根本的で重大な問題を含むものであって、係長としての管理職の資質に関するものであると解されること、原告は当時試用期間中であり、会社への入社までにすでに3社に勤務しており、システムエンジニアとして約27年間の社会人経験を経ているのであって、上司からの指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の可能性を告げて警告することが必要であったともいえないことなどの事情に加え、会社の取引先との関係悪化等の上記事実関係からすると、深刻又は重大な結果が生じなかったとしても、原告の雇用を継続することにより、今後、会社側の経営に与える影響等も懸念せざるを得ないことなどを総合的に考慮すると、会社が、試用期間中である同年11月30日の時点において、試用期間の満了までの残り2週間の指導によっても、原告の勤務態度等について容易に改善が見込めないものであると判断し、試用期間満了時まで原告に対する指導を継続せず、原告には管理職としての資質がなく、従業員として不適当であるとして、原告の本採用拒否を決定したことをもって、相当性を欠くとまではいえないとし、解雇を有効とした。
6 MAIN SOURCE事件・東京地判令元.12.20判例秘書L07430788
原告労働者は、キャンピングカーの製造、販売等を行う被告会社に、試用期間を平成30年5月1日から同年8月31日までの4か月間、業務内容を製造として雇用された。会社は、原告が業務外の社有車による物損事故によって会社に損害を被らせたこと、原告が作業日報作成に関する指導を無視したり、代表者に対して昂然と経営方針の変更を要求するなどして会社の秩序を乱したとして、同年6月1日、原告を同年7月1日付けで解雇した。
判決は、原告は作業日報の記載方法や記載内容について説明を受けていたにもかかわらず、作業日報の問題点欄や今後の対策欄に何の記載もしなかったり「なし」とのみ記載したり、予定作業内容欄に簡略な記載しか行わないなど、会社が求める記載方法や記載内容とは異なる方法で作業日報を作成しており、これについてマネージャーらからの指示、指導がされても改善されないといったことがあったことに加え、作業日報の作成時間等を巡って会社側と意見を対立させた挙句、平成30年6月1日には代表者に対して、会社が採用している社員教育の手法である原田メソッドが原告の思想良心の自由を侵害する違法なものであるから紹介をやめるよう求め、意見を聞き入れなければ訴える等と告げているのであって、マネージャーが原告の作業日報に記載している原告に対する肯定的な評価を踏まえても、原告に協調性がないと会社が判断したことはやむを得ないものといえるとした。加えて、原告が会社への就職内定後、会社から借りたトラックを使用中に、結果として100万円以上の損害を会社に被らせた物損事故を起こしたにもかかわらず、事故後速やかな警察への連絡も、会社への連絡、報告、相談も行っておらず、その後、トラックの損傷状況が会社に明らかになった後も、会社からの要請があって初めて具体的な事故状況の報告を行ったり、物損事故の現場の調査を行っているといった不十分な対応しかとっていないことを、その後の原告の作業日報に関するやりとりと併せて考えれば、会社において大切なこととされている「報告・連絡・相談」を原告が適切に行うことができないものと評価することもやむを得ないといえるとした。そして、会社における業務内容が、複数の工程を限られた従業員(平成30年9月当時の従業員数は9人にすぎない)で分担して行うものであって、また、作業内容が技術的事項にわたるものであってOJTによる習熟を前提としていることからすれば、協調性や、適切な報告・連絡・相談の実施は、会社の従業員として求められる適性であると解されるのであって、平成30年4月16日の採用内定後に発覚した上記事情により原告が上記適性を欠くと評価できる以上、会社が留保解約権を行使することには客観的に合理的な理由が存在し、また、上記経緯に照らせば、その行使は社会通念上も相当と認められるとした。