Case563 週刊誌の取材に回答したことや刑事告発をしたことを理由とする解雇及び精神障害による欠勤を理由とする解雇が無効とされた事案・大津漁業協同組合事件・東京高判令7.1.23
(事案の概要)
本件は、被告漁協から解雇された原告労働者2名が、漁協に対して解雇の無効を主張して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
原告A
原告Aは、①週刊誌記者から取材を受け、漁協が茨城県作成の「しらす試験操業に係る漁獲物等の放射性物質分析結果について」と題する書面の記載を改ざんしたとして、当該書面に書き込みをした本件書面を週刊誌記者に提供しその旨を週刊誌に掲載させたこと、➁無断撮影した倉庫内の書類を証拠とし、茨城県警察に対して、漁協が補助金を不正に受給したと告発したこと、を理由に漁協から普通解雇されました。
原告B
原告Bは、抑うつ状態により令和3年2月4日以降出勤していませんでした。漁協は、令和4年1月23日、業務に耐えられない状態にあることを理由に同年2月22日付けで原告Bを普通解雇しました。
(判決の要旨)
一審判決・水戸地判令6.4.26労判1319.87
原告A
判決は、①週刊誌記事の内容から、一般読者が漁協が何らの根拠なく隠蔽目的で放射性物質分析結果数値を修正し、改ざんしたとの印象を抱くとまではいえず、漁協の信用低下はあくまでも限定的なものにとどまり、原告Aが取材に際して漁協の信用を大きく毀損し得る回答をしたことは認められないとしました。
また、原告Aが、本件書面の内容から、漁協あるいは茨城県が、漁獲物の流通を確保するために、実際の放射性物質検査結果の数値よりも低い数値を公表したのではないかとの疑念を抱くことは必ずしも不合理なことではなく、原告Aが取材に対して、本件書面等を提供し、実際の放射性物質分析結果とは異なる数値が公表された可能性があるとの認識を回答していたとしても、それが故意に虚偽の情報を提供したものであったということはできず、およそ合理的な理由なく漁協の信用を毀損する行為であったということもできないとして、原告Aが取材に応じたことは、不合理に漁協の信用を低下させるものであったとは認められず、解雇の有効性を基礎づける客観的合理的な理由たり得ないとしました。
次に、➁原告Aが認識していた事情を基礎とすれば、原告Aによる告発がおよそ合理性を欠いていたということはできず、その内容においても公益通報としての側面を有していたことを併せ考慮すれば、原告Aによる告発が、解雇の有効性を基礎付ける客観的合理的な理由たり得ないとして、原告Aに対する解雇を無効としました。
原告B
判決は、漁協としては、原告Bの解雇を検討するに当たり、原告Bの病状の詳細を把握し、その状態に応じて配置可能な業務の有無も含め、原告Bの職場復帰の可能性を慎重に検討することが求めたれていたとしました。しかし、漁協は、令和3年3月17日に原告Bに対して欠勤理由の説明を求め、同月30日に原告Bに対して病状等を報告するよう求めたものの、同月31日に原告Bが労働組合に加入して以降、病状等の報告を一切求めることなく、原告Bが精神の障害により業務に耐えられないとして解雇しており、その判断は早急にすぎるものといわざるを得ないとして、原告Bの解雇は社会通念上相当性を欠くとして無効としました。
控訴審判決
控訴審も、一審判決の結論を維持しました。
※上告