Case568 経歴詐称による営業活動に従事させられたことなどに対する損害賠償請求が認められた事案・SES会社経営者ら事件・東京地判令6.7.19労判1322.14
(事案の概要)
原告労働者ら3名が、SES会社であるA社の代表取締役である被告1並びにB社及びD社の元代表取締役である被告2に対して損害賠償請求した事案です。
原告1は、A社の求人に応募して採用内定を受け、代金60万円を支払ってA社のプログラミングスクールを受講しました。その後、原告1はA社ではなくB社との間で雇用契約を締結しました。
原告2は、B社の求人に応募して採用内定を受け、代金48万円を支払ってB社のプログラミングスクールを受講し、B社と雇用契約を締結しました。
原告3は、C社の求人に応募して採用内定を受け、その後C社ではなくD社との間で雇用契約を締結しました。
被告らは採用応募者に対して、スクールの受講が必須であり、従業員であれば割引価格で受講できるなどと説明して受講料を支払させるなどしていましたが、スクールの内容は、未経験者が経歴を詐称するためのスキルシートの作成及び面接の指導並びに取引先に対する営業活動を含むものであり、その主目的は、未経験者に経験を詐称させてSESとして派遣するための営業活動及びその準備をすることにありました。
原告らは、B社及びD社において経歴詐称による営業活動などに従事させられましたが、賃金がその間の賃金が支払われていませんでした。
原告らは、被告らに対し、スクールの受講料、逸失利益(得られたはずの賃金)、慰謝料などの損害賠償を請求しました。
(判決の要旨)
判決は、A社及びB社のスクールは、取引先に、A社又はB社から経験者が派遣されるものと誤信させてSES契約を締結するために、経歴等を詐称したスキルシートの作成及び面接の指導をし、さらには、営業活動をさせるためのものであったのであるから、A社及びB社が、その事業内容である上記詐欺行為を実現するための手段であり、かつ、詐欺行為そのものである営業活動を含むものであって、およそ社会的な相当性を欠く内容のものであったとし、原告1及び2は、実際にITエンジニアとして必要なスキルを習得できると誤信してスクールの受講契約を締結したものと認めるのが相当であるところ、上記のような不法な目的のスクールであると知っていたとすれば、一般企業への就職を希望していた原告1及び2が、スクールの受講契約を締結するとは考えられないとして、スクールの受講契約への勧誘及び締結は、被告ら並びにA社及びB社従業員による詐欺行為(共同不法行為)に当たるとしました。
また、被告ら並びにB社及びD社従業員らは、原告らの雇用主又は上司として、原告らに対して、経歴や年齢を偽る内容のスキルシートを作成させ、経歴詐称により従業員を派遣することを目的として、取引先に対する営業活動(テレアポ)をさせ、経歴等を詐称して面接を受けさせ、取引先においてSESとして勤務をさせたものであり、これらの命令はいずれも、B社及びD社が、取引先に対し従業員の経歴等を詐称してITエンジニアを派遣することにより報酬を得ることを目的とした詐欺行為又はその準備行為の実施を命じたものであり、被告ら又はその部下らが、原告らに対し、業務上の命令として、上記詐欺行為の一部を担うよう命じたのであるから、正当なものとみるべき余地はなく、違法な業務命令であったというほかないとしました。
そして、スクールの受講料、逸失利益(得られたはずの賃金)、慰謝料(原告1は100万円、原告2は80万円、原告3は90万円)などの損害を認めました。
※控訴