【解雇事件マニュアル】Q66採用内々定とは何か

 新卒採用の過程において、採用内定日より前に使用者が学生に採用内々定を表明し、採用内定日に正式に書面で採用内定を通知するという慣行がある。学生が、よりよい就職先を求めて、複数の使用者から採用内々定を得ることもある。

 このような採用内々定関係は、多くの場合に使用者と労働者の双方とも(または少なくとも労働者の方が)それにより労働契約の確定的な拘束関係に入ったとの意識には至っていないと考えられるため、始期付解約権留保付労働契約の成立としての採用内定とは認めにくいとされている(菅野ら『労働法』266頁)。新日本製鐵事件・東京高判平16.1.22労経速1876号24頁も、使用者が内定式で学生から誓約書等の提出を受けて採用内定をしていたことから、それ以前の採用内々定の段階では、使用者が確定的な採用の意思表示(就職希望者の申込みに対する承諾の意思表示)をしたと解することはできず、それ故採用内々定時に労働契約の予約あるいは解約権留保付労働契約その他いかなる法的効力のある合意も成立したと認めることはできないとした。コーセーアールイー(第2)事件・福岡高判平23.3.10労判1020号82頁は、採用内々定時に使用者が学生に対して入社承諾書の提出を求めていた事案であるが、採用内定日に正式内定を行うことが前提とされており、内々定後に具体的労働条件の提示、確認や入社に向けた手続等は行われておらず、入社承諾書の内容も入社を誓約したり企業側の解約権留保を認めるなどというものでもないこと、原告を含めて内々定を受けながら就職活動を継続している新卒者も少なくなかったことなどから、採用内々定は、正式な内定(労働契約に関する確定的な意思の合致)とは明らかにその性質を異にするものであって、正式な内定までの間、企業が新卒者をできるだけ囲い込んで、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないとした。

 もっとも、採用内々定の実態も、事案によって様々であり、採用内々定が始期付解約権留保付労働契約に当たるかどうかは、当該事案の事情から採用内々定時に労働契約が成立したといえるか否かを個別具体的に判断するしかない。水町『詳解労働法』499頁は、例えば、使用者側から採用を確信させるような具体的な言動があり、他社への就職活動を妨げるような事実上の拘束(会社や研修所等に呼び出して他社の面接や試験を受けさせないようにする等)があるような場合には、内々定の段階でも始期付解約権留保付労働契約が成立していると解釈されることがあり得る。

 採用内定と同様、採用内々定が労働契約に当たる場合には、使用者による内々定取消しは、留保された解約権、すなわち解雇に当たるため、解雇権濫用法理(労契法16条)などの解雇規制が適用されることになるだろう。

 なお、採用内々定が労働契約に当たらない場合でも、内々定取消しに使用者の契約締結上の過失が認められることがある。

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