Case573 企業秩序違反事件の調査のための出社要請を拒否したこと等を理由とする退職金減額を無効とした事案・労働政策研究・研修機構事件・東京高判平17.3.23労判893.42
(事案の概要)
原告労働者は、被告法人の情報資料部資料管理課などで勤務したのち自己都合退職しました。法人は、原告が①就業時間中に業務用パソコンを使用して、業務上必要のない他部署の文書データに少なくとも百五十数回にわたってアクセスし、また業務と無関係な事故の文書ファイルにもアクセスするなど、頻繁かつ長時間にわたり、私的目的で業務用パソコンを使用して職務専念義務に違反したこと、②法人の内部文書を業務上の必要性とは無関係に、私的に外部者に提供し、法人の秩序又は規律を乱したこと、③週刊誌に法人に関する批判的な記事が掲載されたことや上記①②の事実調査のために、週刊誌の記事への関与が疑われる原告に出頭を求めたところ、原告が調査に対してはメールや郵便で応じているし、有給休暇中であるなどとしてこれを拒否したこと、を理由として原告の退職金を1割減額しました。
本件は、原告が法人に対して、退職金減額が無効であるとして、差額退職金等の請求を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、原告の文書データへのアクセスの一部が職務専念義務違反に当たることは否定できないが、その程度は極めて軽微であり、退職金の減額事由にはならないとしました。
また、労働者は、使用者の行う労働者の企業秩序違反事件の調査について、これに協力することがその職責に照らし職務内容となっていると認められる場合か、または調査対象である違反行為の性質・内容、違反行為の見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無など、諸般の事情から総合的に判断して、その調査に協力することが労務提供の義務を履行するうえで必要かつ合理的と認められる場合でない限り、調査協力義務を負わないとしました。
そして、原告の退職直前の職位は、労働関係の図書や資料の収集・整理を業務内容とする資料管理課の課長代理であり、法人が行う労働者の企業秩序違反行為の調査に協力することが職務内容とはなっていなかったこと、週刊誌の記事の内容の真偽については、法人の内部において調査することにより的確な反論をすることができる内容ということができ、有給休暇中の原告に出社を求めるのももっともと判断することを基礎付ける事実をうかがうことが原告の労務提供義務の履行にとって必要かつ合理的であったと認めることはできないこと、法人の原告に対する来訪を求める目的や、記事に関して受ける質問の内容、調査について緊急性が明らかにされていないことから、原告が法人からの要請に応じなかったことが、原告の法人に対する労務提供義務に付随する義務に違反したと認めることはできないことなどを理由に、退職金減額を裁量の逸脱濫用として無効としました。
※上告棄却・不受理により確定