【有休】Case582 コロナ禍での海外への渡航を禁止するために休暇予定日の前日にされた時季変更権の行使が違法とされた事案・京王プラザホテル札幌事件・札幌高判令6.9.13労判1323.14

(事案の概要)

 原告労働者は、令和2年3月にハワイで行われる娘の結婚式に出席するため、被告会社に対して、約1か月前に年次有給休暇の時季指定をしました。

 当初会社はこれを了承していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大等を考慮して、国外への渡航を禁止するため、有休予定日の前日になって、原告に対して時季変更権を行使しました。その結果、原告は娘の結婚式に出席できませんでした。

 本件は、原告が会社に対して、時季変更権行使は違法であるとして損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、有給休暇を利用した海外渡航によって新型コロナウイルスに感染する危険性が高まることが、会社の事業運営を妨げる客観的事情であり、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当し、これを理由に時季変更権を行使することも許されるとしました。

 しかし、労働者によって有給休暇の時季指定がなされた後、事業の正常な運営を妨げる場合に該当するか否かの判断は、必要な合理的期間内にされる必要があり、不当に遅延した時季変更権の行使は権利濫用になるとしました。

 そして、会社は、原告が海外渡航を経て新型コロナウイルスに感染する現実的危険性及び感染した場合の事業運営上の影響の重大性については、北海道独自の緊急事態宣言が発表された2月末頃か、いかに遅くとも3月14日までには認識可能であったとし、会社が休暇開始日の前日に本件時季変更権を行使したことは、合理的期間を経過した後にされたもので権利濫用であり、原告の年次有給休暇を取得する権利を侵害する不法行為に当たるとし、慰謝料30万円を認めました。

※上告受理申立

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