【労使慣行】Case592 選任教員の賞与及び入試手当について労使慣行の成立を認めた事案・学校法人桐蔭学園事件・横浜地判令6.12.26労判1328.5【労働弁護士が選ぶ今日の労働裁判例】

事案の概要

 学校法人である被告Y法人は、その専任教員に対し、平成6年以降約25年間にわたり、特定の算出方法(本件賞与算出方法)に基づき一律に賞与を支給し、また平成7年以降約25年間にわたり、基本的に全専任教員に一律に11万6000円の入試手当(監督)を支給してきました。また、非常勤講師に対しても、遅くとも平成10年以降、特定の乗率(非常勤賞与乗率)に基づき賞与を支給してきました。これらの支給は、労使間の団体交渉を経て決定された経緯があり、長期間継続していました。

 しかし、被告法人の事業活動収支および資金収支は、平成20年度以降マイナスが常態化し、資金が大幅に減少する状況が続いていました。被告法人は、財政状況の改善を図るため、専任教員及び非常勤講師に対して支給してきた賞与及び入試手当を減額・廃止する措置(本件措置)を、令和2年3月30日付けで全教職員に告知しました。

 これに対し、専任教員及び非常勤講師である原告らは、これらの賞与や手当の支給は労使慣行として法的効力を有しており、被告法人が一方的にこれらを減額・廃止したことは無効であると主張し、未払賃金等(本件措置による減額・廃止分の支払)を求めて提訴しました。

判決の要旨

 判決は、労使間の慣行的取扱いは、①同種の行為または事実が一定範囲で長期間反復継続して行われ、②労使双方が明示的にこれを排除しておらず、③当該慣行が労使双方の規範意識に支えられ、特に使用者側の労働条件決定権者が規範意識を有するに至っている場合には、民法92条により、事実たる慣習として法的効力が認められると解するのが相当であるとの規範を示しました。

 そして、本件専任教員に対する賞与及び入試手当(監督)の支給については、その決定経緯や約25年間の継続性、一律性、定額性などを踏まえ、上記要件を満たし、民法92条により労使慣行としての法的効力が認められると判断しました。これらは就業規則ないし給与規則の内容を補完ないし修正するものとして、専任教員と被告との間の労働契約の内容の一部を構成するとしています。

 もっとも、非常勤講師の就業規則に賞与支給は「必要を認めた場合は…支給することがある」と規定されていることや、被告が支給前に協議・決定を行っていたことなどを挙げ、非常勤講師に対する賞与については労使慣行としての法的効力は認められないと判断しました。

 また、就業規則の不利益変更について定めた労契法10条に準じて労使慣行の不利益変更が許容される場合もあるとして、専任教員の賞与及び入試手当についても、本件措置による労使慣行の不利益変更が有効であるとして、原告らの請求をいずれも棄却しました。

控訴

Follow me!