【不当解雇】Case599 労基法違反を告発するメールを社内に一斉送信したことや病気による時短勤務であることなどを理由とする解雇が無効とされた事案・明和住販流通センター事件・東京地判令6.3.21労判1330.39
パソコンの私的利用や、労基法違反を告発するメールを社内に一斉送信する行為、病気療養中で時短勤務であったことなどを理由とする解雇は有効なのでしょうか。
本件は、私的パソコン利用やその他の問題行動を理由とした解雇について、その事実認定や合理性が詳細に検討され、最終的に無効と判断された事例です。
【事案の概要】
本件は、Y社に正社員として勤務していた原告労働者Xが、腎臓疾患による時短勤務中に、上司へのメール(本件メール)の内容が「ハラスメント」および「脅迫」に該当することを理由に、降格・減給(本件降給降格処分)をされた後、約1ヶ月後に他の従業員や上司へのハラスメント行為、私的なパソコン利用、職務能力の欠如などを理由に普通解雇(本件解雇)されたことについて、いずれの処分も無効であると主張し、Y社に対して労働契約上の地位確認等を求めた事案です。
なお、上司へのメールでの「ハラスメント」とされた言動を理由とした降格処分は有効とされました。また、賞与請求は認められませんでした。
【判決の要旨】
判決は、本件解雇については無効であると判断しました。 Y社が主張した解雇事由について、裁判所は以下のように評価しました。
⑴ハラスメント行為および業務命令違反
Xの言動に一部不適切な言動は認められつつも、繰り返しの違反や誹謗中傷と認定するに足りる証拠はないとし、改善の余地がなかったとはいえないとしました。
特に、労働基準法違反の可能性を指摘するために代表者に対して社内に一斉送信したメールについては、不相当な面は否めないとしつつも、労務管理の問題点を指摘する正当な内容であり、直ちに不相当とまではいえないとしました。
⑵就業時間中のパソコンの私的利用
Y社が主張する「毎月300〜600時間」という私的利用時間は「現実的にあり得ない荒唐無稽な主張」とされました。Y社が提出した証拠も、画面表示時間数の重複や業務との関連性の不明確さから、私的利用を認定する証拠としては不十分であると退けられました。また、Y社が注意指導をしていた事実も認められませんでした。
⑶職務能力の欠如
Xの人事評価は常に「B」以上であったことから、解雇事由に該当する職務能力の欠如は認められないとされました。病気療養中であることを理由としたRクラスへの位置付けは既に賃金に反映されているため、これを職務能力の欠如として主張することは「暴論である」と断じられました。
以上より、Xの行為はY社の就業規則上の解雇事由に該当せず、本件解雇は客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当性を欠くため無効であるとされました。
【まとめ】
・会社は複数の解雇事由(ハラスメント、私的PC利用、職務能力欠如)を主張したが、個々の事実が詳細に検討された結果、いずれも解雇事由に当たらないとされた。
・労働基準法違反の可能性を指摘するメールを社内に一斉送信したことは不相当な面は否めないものの、内容自体は社内全体に関わる正当な問題提起であるとされた。
・病気療養中で賃金も低い時短勤務とされていたことを職務能力の欠如として主張することは「暴論である」と一蹴された。