【休憩】Case608 客室乗務員に休憩を付与しないことの違法性を認め損害賠償及び違法な勤務命令の差止めを命じた事案・ジェットスター・ジャパン事件・東京地判令7.4.22労判1332.15

客室乗務員に労基法34条1項所定の休憩時間を付与しないことは同条項違反に当たるのでしょうか。ジェットスター・ジャパン事件は、航空会社の客室乗務員が労働基準法に定められた休憩時間を付与されない勤務を強いられたことについて、会社側の安全配慮義務違反を認め、損害賠償および将来の勤務差止めを命じた画期的な事案です。

【事案の概要】

本件は、航空運送事業を営む被告Y社に客室乗務員として勤務する、または勤務していた原告労働者Xら35名が、労基法34条1項に定める休憩時間を付与されない勤務を命じられたことによる精神的苦痛の損害賠償と、現職のXらに対する将来の同様の勤務命令の差止めを求めた事案です。

XらはY社の定める15通りの勤務パターン、またはパターン外の勤務に従事していましたが、いずれの勤務パターンにおいても労基法34条1項所定の休憩時間は設定されていませんでした。Y社は、Xらの勤務実態に照らし、労働基準法施行規則32条1項または2項が適用されるため、休憩時間を与えなくても労基法34条1項に違反しないと主張しました。Y社は、フライト間の便間時間や機内でのクルーレストの時間が、労基則32条2項の「その他の時間」に該当すると主張しました。

労基法第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

労基則第三十二条 使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。
② 使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

【判決の要旨】

⑴ 労基法34条1項違反の有無

裁判所は、客室乗務員が労基則32条1項の「給仕」に該当するとしつつ、同項の「長距離にわたり継続して乗務するもの」について、継続して6時間以上の乗務を要すると解釈し、複数回の離着陸を伴う本件乗務はこれに該当しないと判断しました。

また、労基則32条2項の適用については、Xらの業務が「業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合」に該当するとは認められるものの、「その他の時間」は、実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間に限られると解釈しました。この定義に基づき、客室乗務員が様々な業務に従事している便間時間や、乗客対応や緊急事態への対応義務があるクルーレストは、「その他の時間」に該当しないと判断しました。

したがって、Y社がXらに対して命じた多くの勤務パターンは、労基法34条1項に違反すると結論付けました。

そして、労基法34条違反の勤務命令は、労働者の健康等を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務に違反すると認定し、各原告につき慰謝料として10万円の支払いを命じました。

⑵ 差止請求の可否

裁判所は、心身の健康等は、排他的な権利としての人格権として保護されるべき法益であり、労基法34条1項に違反する勤務を命じることは、労働者がこれを受忍すべき合理的理由はなく、労働者の人格権を違法に侵害する行為であり、将来にわたって同様の行為が継続する蓋然性が認められるため、差止めの必要性があるとし、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を付与しない勤務(ただし、労基則32条2項所定の時間の合計が上記休憩時間に相当する場合を除く)を命ずることの差止を命じました。

※控訴

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