【過労自殺】Case622 当直勤務が労働時間に当たるとし警察官の自殺について県の責任が認められた事案・熊本県(玉名警察署)事件・熊本地判令6.12.4労判1335.5
【事案の概要】
労働者Kは、熊本県玉名警察署に所属する警察官であり、平成29年9月に自殺しました。Kは、平成29年3月末にA課A1係に配属され、強行犯捜査に従事していました。
Kの当直勤務の時間を含む時間外労働時間数は、最も多い平成29年7月頃で185時間30分に達していました。Kは同年6月頃から、職場の上司との人間関係に悩んだり、書類作成の仕事がたまっていることを嘆いたりする悲観的な内容のメッセージを交際相手に送るようになっていました。Kに精神障害の既往歴や、業務外のトラブルは確認されていません。
Kの相続人である原告ら(母、兄、妹)は、本件自殺はA課における過重な業務により精神障害を発病したことが原因であると主張し、被告熊本県(Y県)に対し、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償金の支払いを求めました。なお、本件自殺については、令和2年11月に公務災害と認定する処分(本件認定処分)がなされています。
【判決の要旨】
1 本件自殺と業務との因果関係(業務起因性)
裁判所は、Kは遅くとも平成29年8月末までにICD-10のF32「うつ病エピソード」を発病したと認めました。
また、当直勤務中の労働時間について、実際に当直業務に従事している時間のほか、当直勤務の時間を通じて,当直業務に従事する職員において直ちに対応すべき義務があり,Kの当直勤務中に警察事象が発生した頻度及び内容等の事情を考慮すると,当直業務に対応する時間以外の時間についても,休憩時間 1時間を除いては,労働からの解放が保障されているものではなく,使用者の指揮命令下に置かれているといえ,時間外労働時間に当たると認められるとしました。
そして、Kの時間外労働の具体的状況は、精神障害を発症させる程度の心理的負荷を与えるものであることから、KはA課の業務により精神障害を発症し、本件自殺に至ったものであり、業務と本件自殺との因果関係が認められると結論づけられました。
2 Y県の注意義務違反・過失の有無
Kの時間外労働の具体的状況が精神障害を発症させる程度の心理的負荷を与えるものであったところ、Kの上司であるA課長等の職員は、Kの当直勤務の時間を含む時間外労働時間数を当然に認識し、または容易に認識し得たにもかかわらず、その業務の過重性を解消する措置を講じていなかったため、注意義務に違反したと認められると判断し、原告らの損害賠償請求を一部認容しました。
※確定