【不当解雇】Case633 1年間の雇用期間の定めが実質的に試用期間であるとして期間の定めのない労働契約上の地位確認が認められた事案・TBWA HAKUHODO事件・東京高判令7.4.10労判1338.5

【事案の概要】

原告労働者Xは、被告Y社との間で、令和4年3月1日から雇用期間1年間、年俸450万円とする契約社員としての労働契約(本件労働契約)を締結しました。Y社では、以前は正社員採用者でも最初の1年間は契約社員とする採用方法をとっていましたが、後に原則3か月の試用期間を設けた上での無期労働契約締結に変更されていました。しかし、本件オファー面談時(令和4年2月)、Y社の人事局長CはXに対し、本件労働契約の1年間の期間の定めについて「これは長めの試用期間のようなものと考えていただければ。来年には正社員です」と説明しました。Xはこれを踏まえて内定を受諾しました。

本件労働契約の期間満了後(令和5年3月1日以降)、XはY社で就業を継続しましたが、Y社はXに対し1年間の有期労働契約の更新を申し入れ、Xは正社員登用されないのは不当であるとして受け入れを拒否しました。その後Xは、妥協案として給与を上げてもらえるなら契約社員でも構わないと告げましたが、Y社に拒絶されました。Xが不本意ながら更新に応じる旨回答した後、Y社は雇用契約書を交付しましたが、Xは署名や押印をしませんでした。

Xは、本件労働契約の1年間の期間の定めは試用期間であり、契約自体は期間の定めのない労働契約(無期労働契約)であると主張し、試用期間満了後の正社員としての地位確認等を求めて提訴しました。Y社は、本件労働契約は有期契約である、あるいは試用期間中の留保解約権を行使した、または更新契約が成立したと主張しました。

【判決の要旨】

1 期間の定めの試用期間該当性

判決は、Y社が過去に、正社員として採用する者に対しても、原則最初の1年間は有期労働契約を締結しており、採用方法を変更した後も同様の扱いが可能であったこと、採用面談時の説明の内容、これを受けてXが内定受諾したこと、人材紹介会社を介してY社に入社した者のうち1年後に正社員にならなかった例がないことなどの事情から、本件労働契約における 1 年間の期間の定めについては、原告の適性を評価・判断する趣旨・目的で設けられたものと認められるから、上記期間は、契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当である。したがって、本件労働契約については、 1 年間の試用期間中における解約権が留保された、期間の定めのない労働契約であるというべきであるとしました。

2 留保解約権行使の事実の有無

Y社は試用期間中である令和5年2月28日までに1年間の有期契約の更新を申し入れたものの、これをもって、Y社が本件労働契約において留保された解約権を行使したと認めることはできないとされました。また、Xが試用期間満了後も引き続き就業していたことから、Y社が試用期間中に留保解約権を行使したとは認め難い、とされました。

3 更新契約(有期労働契約)の成立の有無

Xが更新契約に応じる旨回答した事実は認められたものの、XはY社が交付した雇用契約書に署名や押印をしておらず、合意書面も作成されていないことから、Xの回答をもってY社が提案した更新契約に応じる旨の確定的な意思表示であったと認めることはできず、更新契約は成立しなかったと判断されました。

4 結論

判決は、Xが期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を認めました。

※上告・上告受理申立

Follow me!