【懲戒処分】Case658 大学講師の学生とのトラブルがいずれも懲戒事由に該当しないとして戒告及び減給処分が無効とされた事案・学校法人福原学園(減給等)事件・福岡高判令7.9.3労判1343号5頁
【事案の概要】
原告労働者Xは、被告学校法人Yが運営する大学の講師です。Xは、Y法人から以下の2つの懲戒処分を受け、これらがいずれも懲戒事由に当たらないとして、各処分の無効確認、減給分の賃金支払い等を求めて提訴しました。
本件懲戒処分1(戒告):平成28年11月、Xが学内のトレーニングセンターで忘れ物の靴を無断借用し、持ち主の男子学生に見つかってトラブルとなり、男子学生の通報によって警察車両が出動する騒ぎとなったこと等(本件出来事1)を理由とするもの。
本件懲戒処分2(減給):令和3年〜4年にかけ、Xが担当ゼミの女子学生から妊娠の相談を受けた際、①休学・退学の選択肢を示したこと、②「片親の場合や親が3歳までしっかり育てない場合は、子どもが犯罪者や問題児に育つ可能性が高いという研究結果がある」と伝えたこと、③学生から提出されたプレゼン資料を確認しないまま一方的に追試を決定したこと、④追試時に「不合格にもできるのに時間を割いて追試をしてあげている」という意味に受け取れる発言をしたこと等(本件出来事2)を理由とするもの。
【判決の要旨】
判決は、いずれの懲戒処分についても懲戒事由に当たらないとし、2つの懲戒処分が無効であることの確認や減給分の賃金の支払いを認めました。
1. 本件懲戒処分1(無断借用と学生とのトラブル)について
裁判所は、警察が出動する騒ぎになったのは男子学生の過剰な対応によるものであり、Xの言動と相当因果関係があるとはいえず、名誉や社会的信用を害したとはいえないと判断しました。そして、懲戒権限の行使は,経営秩序の維持確保という目的のために必要不可欠と認められる限度で許容されるというべきであり,教員としての倫理上,一定の非難を受けるべき行為があるとしても,そのような行為がすべて懲戒処分の対象となるものではない。本件出来事 1 の発端となるXの行為は,忘れ物の靴を借用したというものにすぎず,客観的に見て,Yの経営秩序を乱す性質,態様のものではないから,懲戒権限を行使する必要性があるとは認められないとしました。
また、事情聴取の際のXの発言(文化の違いやモンスター学生の存在等に言及したこと)についても、そうした事情聴取は,主に対象者に弁明の機会を与えるために行われるものであり,その場での発言や態度が懲戒事由該当性を積極的に基礎付けることはないというべきであるとして、これを懲戒事由に加えることを否定しました。
2. 本件懲戒処分2(女子学生への対応等)について
裁判所は、Xの4つの言動について個別に検討し、いずれも職務上の義務違反や誠実義務違反には当たらないと判断しました。
⑴休学・退学の選択肢を示した(本件言動1)
本件女子学生は、妊娠・出産の場合の単位認定等について大学事務局に問い合わせることが可能であり、それが通常期待される行動であるから、本件言動1においてXの説明に不十分な点があったとしても、職務上の義務や誠実義務に反するものではなく、懲戒事由に該当しない。
⑵片親等に関する発言について(本件言動2)
偏見や差別的見解と受け取られるおそれの高い発言であり、配慮を欠くものであったが、学生の身分のまま婚姻せずに出産するという本件女子学生に対して、事柄の重大性を伝えようとしたものと理解され、本件女子学生の考え方を全面的に否定したり、自己の考えを押し付けたりするものであったとは考えられず、本件女子学生が不快感を持ったとしても、直ちに懲戒事由に該当する職務上の義務違反や誠実義務違反があったということはできない。
⑶追試への変更や追試時の発言について(本件言動3・4)
資料未確認での追試決定は、LINEのみのやり取りによる行き違いでありやむを得ない面があった。追試時の発言についても、本件女子学生に何らかの見返りを求めるものではなく、手間がかかったことについて嫌味を述べたにとどまり、その発言が職務上の義務違反や誠実義務違反に当たるということはできない。
※確定


