Case382 退職勧奨の後に行われた配置転換に伴う約50%の降格減給が無効とされた事案・日本ドナルドソン青梅工場事件・東京高判平16.4.15労判884.93

(事案の概要)

 被告会社は、年功序列制度を改め、能力型賃金体系を採用するため新人事考課制度(職務内容および職務遂行能力に応じて1等級から11等級に区分)を導入し就業規則を変更しました。新就業規則には「社員の異動は、社員の能力……その他を考慮して会社が業務上必要な場合において公平に行う。これは、例外として必要によっては給与の変更を伴うことがある。」「……55歳以降は能力……により、役員会の判断により若い同僚のキャリア発展のため一線から退くことや別の仕事に移るように要求されることもある。それによって給与調整が成されることもある。」と定められていました。

 会社は、原告を青梅工場生産課「工作改善班」に配置転換しましたが、この時点では給与の減額を行いませんでした。

 会社は、人員削減のため55歳を迎えた原告労働者を含む24名に対して早期退職金を提示して退職勧奨を行いました。会社は、原告に対して、退職勧奨に応じなければ賃金を50%程度減額すると告げましたが、原告は退職勧奨に応じませんでした。

 会社は、原告を新設の「廃液処理班」に配置転換し、原告の給与を50%程度減額しました(6等級から1等級に格付け)が、「工作改善班」から「廃液処理班」に名称が変わっただけで業務内容に変更はありませんでした。

 本件は、原告が会社に対して、賃金減額の無効を主張し差額賃金及び差額賞与を請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、「工作改善班」から「廃液処理班」への配置転換は、名称が変わっただけの形式的なものであるため、就業規則上の異動ということはできず、異動を理由とする賃金減額の根拠にはならないとしました。

 もっとも、会社が「工作改善班」への配置転換の時点で本来すべき賃金減額を退職勧奨の間猶予していたと主張したため、当該配置転換に伴う賃金減額として有効か検討しました。

 判決は、就業規則が給与の減額の根拠規定となるといっても、給与という労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件を変更するものであることに照らすと、これらの規定を根拠として使用者が一方的に労働者の給与の減額をする場合は、そのような不利益を労働者に受忍させることが許容できるだけの高度な必要性に基づいた合理的な事情が認められなければ無効であるとし、就業規則に異動に伴う賃金の減額措置が定められていたとしても、配転に伴う給与の減額が有効になるには、配転による仕事の内容の変化と給与の減額の程度とが、合理的な関連を有していなければならないとしました。また、給与減額の合理性の判断にあたっては、減額によって労働者が被る不利益の程度、労働者の労力や勤務状況等の労働者側の帰責性の程度、それに対する使用者側の適切な評価の有無、会社の経営状況等、業務上の必要性の有無、代償措置の有無、従業員側との交渉の経緯等を総合考慮して判断されるべきであるとしました。

 そして、原告の受ける不利益が非常に大きいこと、原告を6等級から1等級に格付けすることが恣意的なもので、1等級の格付けを伴ってされた給与減額は、労働者の能力に対する評価の適切さという点で極めて合理性を欠くこと、会社の経営状況に照らして必要性が高かったとはいえないことなどから、賃金減額は合理性を欠くとして無効としました。

 給与減額に伴い減額された賞与の差額請求も認められました。

※確定

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