Case517 派遣元事業者と労働者との間の業務委託契約の実質が労働契約に当たり契約解除が期間途中の解雇に当たり無効であるとした事案・ハンプテイ商会ほか1社事件・東京地判令2.6.11労判1233号26頁
(事案の概要)
原告労働者は、派遣元事業者とソフトウェアに関する業務委託契約等を締結し、派遣先事業者でA社向けカスタマイズ業務を行っていました。
派遣元事業者は、原告に対して、業務委託契約の期間途中に、契約解除すると告げました。解除理由について派遣元事業者は、①「原告のスキル不足により、コーディングが不完全で、単体テストの開始までに終了すべきコンパイルの作業や動作確認が行われていなかった。また、原告が外出・退出を繰り返したことで、単体テストのスケジュールが大幅に遅延した」、②「原告は、派遣元事業者の了解を得ることなく派遣先事業者に対し、原告と関係のあるC社の社員を作業要員として提案し、背信行為を行った。」旨主張しました。
本件は、原告が、派遣元事業者に対して、業務委託契約等の実質が有期労働契約であり、契約解除が期間途中の解雇に当たるとしてその無効を主張した事案です。
なお、原告は派遣先事業者に対して派遣法40条の6による直接雇用も求めましたが、労働者派遣契約に該当するものの、派遣法の適用を免れる目的がなかったとして否定されています。
(判決の要旨)
1 労働者性
判決は、労働者は、使用者に使用されて労働し、労働の対償として賃金を支払われる者をいい(労働契約法2条、労働基準法11条)、実質的にこのような関係(使用従属関係)にある場合には、契約の形式にかかわらず、労働契約関係すなわち雇用関係にあるといえるとしました。そして、このような関係にあるといえるかは、①仕事の依頼の諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的、場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定支払方法を主たる要素として考慮し、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に表れた事業性、⑦専属性を補助的な要素として考慮すべきであるとしました。
そして、原告について①派遣先事業者を通じた派遣元事業者からの業務の依頼(指示)を断る自由があったとはいえないこと、②派遣先事業者を通じた派遣元事業者の指揮監督を受けていたこと、③作業時間と場所が決められており時間的、場所的拘束を受けていたこと、④原告が第三者に代替させたり補助者を使ったりすることはなく代替性がないこと、⑤報酬はほぼ作業時間に応じて決まっており、作業時間と報酬には強い関連性があること、などの事情から、労働者性を認めました。
2 期間途中の解雇
判決は、①コーディングが不完全であった等の事実を裏付けるに足りる的確な証拠はない上、それが原告のスキル不足によることを裏付ける証拠はなく、むしろ派遣先事業者の社員が、原告が作業に従事していた当時、原告の開発技能や作業内容に問題があるとは認識しておらず、会議の議事録にも作業の遅れが原告の技能不足にあることをうかがわせる指摘はなかったこと、原告が平成29年12月初旬に2回外出し、1回午後5時に終業した事実はあるが、同年11月の原告の作業時間は240時間を超えており、外出等により原告が開発作業を懈怠していたとはいえないこと、カスタマイズ業務の作業が遅延していたのは、派遣先事業者の基本設計の担当者が休養に入ったこと等により基本設計が完成していなかったことや、顧客の要望により開発の分量が当初より増えたことによるものであることから、カスタマイズ業務の遅延が、原告のスキル不足や、労働者の作業離脱によるとは認められないとしました。
また、②原告は、派遣先事業者の社員の依頼により、カスタマイズ業務に従事する開発作業者としてC社のH及びMを紹介した事実はあるが、派遣先事業者の社員に対しては、いずれも派遣元事業者の者として紹介したもので、同じ時期に派遣元事業者の代表者にもC社、H及びMが紹介されていること、C社と契約して、HやMを開発作業者とするかどうかは、派遣元事業者の代表者がC社と条件を交渉して決定していることからすれば、原告が派遣先事業者にH及びMを紹介した行為が派遣元事業者に損害を与える行為とはいえず、背信行為ということはできないとしました。
以上より、判決は、契約解除は、労契法17条1項の「やむを得ない事由」の要件を欠き無効であるとしました。
※確定