【解雇事件マニュアル】Q55使用者による一方的な試用期間の延長は許されるか

1 はじめに

 当初設定された試用期間が経過しても労働者の適正等が判断できないとして、使用者が一方的に試用期間を延長することは許されるか。

2 労働契約上の根拠がある場合

 この点、当初から就業規則等で延長の可能性及びその事由、期間などが定められており、試用期間の延長が労働契約の内容となっている場合には、延長が認められる余地がある(菅野ら『労働法』276頁)。もっとも、試用期間の延長はあくまで例外的であり、①就業規則上の根拠のみならず、②試用契約を締結した際に予見し得なかったような事情により適格性等の判断が適正になし得なかったという場合のように、延長を必要とする合理的事由があることが必要であるとされている(白石『労働関係訴訟の実務』451頁)。大阪高判昭45.7.10労判112号35頁は、1年の試用期間について、就業規則に「会社が必要と認めた場合、または特に理由ある場合」にはこれを延長できる旨の定めがある事案において、「会社は、試用期間が満了した者については、これを不適格と認められる場合のほかは原則として社員に登用しなければならない義務あるものと解せられ、従つて前記試用規則(略)の試用の期間の延長規定は右原則に対する唯一の例外であるから、その適用は、これを首肯できるだけの合理的な事由のある場合でなければならない。」としたうえ、「そして、いかなる場合に右合理的理由があるかを本件で問題となつている勤務成績を理由とする場合に即して考えれば、試用期間が基本的には社員としての適格性の選考の期間であること(試用規則(略))の性質上、その期間の終了時において、(A)既に社員として不適格と認められるけれども、なお本人の爾後の態度(反省)如何によつては、登用してもよいとして即時不採用とせず、試用の状態を続けていくとき、(B)即時不適格と断定して企業から排除することはできないけれども、他方適格性に疑問があつて、本採用して企業内に抱え込むことがためらわれる相当な事由が認められるためなお、選考の期間を必要とするとき(その場合、会社は延長期間中についに不適格と断定できないときは、結局社員登用しなければならないであろう。その期間、再延長の可否についてはなお問題があるが、しばらく措く。)が考えられる。右(A)の場合は労働者に対し恩恵的に働くのであるから、その合理性は明らかであるが、(B)の場合もこれを不当とすべき理由はない。」とした。また、上原製作所事件・長野地諏訪支判昭48.5.31労判181号53頁は、「被告の就業規則中には「三か月間の試用期間は人物判定み都合上延長することがある。」旨の規定が存することを認めることができるが、ここに延長することがあるとは、右延長の許否を被告の一方的、恣意的判断に委れる趣旨ではなく、それは、試用契約を締結した際に予見しえなかつたような事情により適格性等の判断が適正になしえないという場合のごとく延長を必要とする合理的事由がなければ許されないことを意味すると解すべきである。」とした。

3 労働契約上の根拠がない場合

 これに対して、試用期間の延長が労働契約の内容となっていないにもかかわらず、使用者が一方的に試用期間を延長することは、労働者に契約にない不利益を与えるものであるため原則として許されず、留保解約権が行使されないまま試用期間が経過すれば、労働関係は留保解約権なしの通常の労働関係に移行するとされている(同頁)。

 もっとも、当初の試用期間満了時に使用者が労働者を有効に本採用拒否できる場合に、これを猶予して試用期間を延長することは、労働者の不利益にならないため許される余地がある。雅叙園観光事件・東京地判昭60.11.20労判464号17頁は、「試用期間満了詩に一応職務不適格と判断された者について、直ちに解雇の措置をとるのでなく、配置転換などの方策により更に職務適格性を見いだすために、試用期間を引き続き一定の期間延長することも許されるものと解するのか相当である。」として試用期間の延長を認めつつ、延長された試用期間満了よりも後に行われ、延長する期間の定めもされていない2回目の延長については効力を否定した(結論として普通解雇有効)。

Follow me!