【労災、過労死、脳心臓疾患、損害賠償】Case580 部活の顧問等による教員の過労死について校長の安全配慮義務違反が認められた事案・滑川市・富山県事件・富山地判令5.7.5労判1321.60

(事案の概要)

 本件労働者は、被告市が設置する本件中学校で教員をしていました。本件労働者は、担任や理科の授業のほか、部活の顧問として平日の朝及び放課後の練習の指導、休日の練習ないし試合の引率などを行っていましたが、自宅でくも膜下出血を発症して死亡しました。

 本件労働者の時間外労働時間は、発症前6か月の最も多い月で135時間超、平均月89時間に及んでいたほか、本件労働者は発症前日まで25日連続勤務、それ以前も2日空けて27日連続勤務していました。

 しかし、本件中学校ではタイムカード等による労働時間の把握はされていませんでした。

 本件労働者の死亡については、公務災害の認定がされています。

 本件は、本件労働者の遺族である原告らが、被告市及び被告県に対して損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、地方公共団体の設置する中学校の校長は、自己の監督する教員が、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等を過度に蓄積させ心身の健康を損なうことのないよう、その業務の遂行状況や労働時間等を把握し、必要に応じてこれを是正すべき安全配慮義務を負うとしました。

 また、本件中学校では、教務部の作成する教科担当の週当たりの持ち時間数の一覧表により各教員の担当時間数を把握することができ、部活指導に関しては、本件中学校における部活動時間の取り決めや特殊勤務実績簿等により、その活動内容および時間を把握することができたし、その他の公務分掌についても、各種連絡文書によって、その内容および時間が共有されていたことからすれば、校長は、本件労働者が量的にも質的にも過重な業務に従事しており、心身の健康を損ねるおそれがあることを客観的に認識し得たといえるから、その業務の遂行状況や労働時間等を把握し、必要に応じてこれを是正すべき義務を負っていたとしました。

 そして、校長が本件労働者の業務量や勤務時間等を適切に把握していたとはいえず、本件労働者の業務負担を軽減するための具体的かつ実効的な是正措置がとられていたともいえないとして、校長の安全配慮義務違反を認め、被告らに賠償を命じました。

 被告らによる、本件労働者が脳動脈瘤や高血圧を有していたことを理由とする素因減額、及び本件労働者が発症前1か月にわたり降圧剤を服用せず血圧測定を行っていなかったことや医療機関を受診しなかったことを理由とする過失相殺の主張は否定されました。

※確定

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