【解雇事件マニュアル】Q72 「遅滞なく」とは

 使用者は、解雇された又は解雇通告された労働者が解雇理由証明書を請求した場合、遅滞なくこれを交付しなければならない(労基法22条1項及び2項)。

 「遅滞なく」とは、具体的にいつまでに交付しなければならないのであろうか。

 「遅滞なく」の意義を明示している通達等は見当たらないが、厚労省『労基法上』342頁は、同条の証明書一般について、労働者の就業を妨害する結果となるおそれがあることにかんがみ、「遅滞なく」とは「可及的速やかに」の意と解すべきであるとしている。

 労基法22条の証明書の事案ではないが、雇用解除成立確認等事件・東京地判昭41.9.28判タ199号174頁は、学校卒業生が就職活動で特定の会社に提出する目的で昭和35年7月14日に学校に対して成績証明書及び卒業証明書の発行を求めたが、会社への提出期限である同月20日までに証明書の交付がされなかった事案で「成績証明書等の交付の遅滞の有無は、かかる証明書等の交付請求を受けた学校側における事務の繁閑、資料の整備等の諸事情、ならびに請求者側におけるその使用目的および期間ならびにこれらの事項の明記の有無などの諸事情を衡量しつつ、社会通念に従って判断すべきものであるが、本件においては前叙のとおり被告学園が昭和三五年七月一日〔著者注:十四日の誤記と思われる。〕に原告の請求を受けるや、翌一五日には本件(1)証明書を作成していることからみればとくに被告学園の側に事務繁忙等の事情があつたことは窺われない。しかし、……原告が被告学園に対し本件(1)証明書を請求するに当り、なんらその具体的使用目的および使用期限等を明示しなかつたことが認められるところ、かかる場合には当該証明書を一定期日までに使用すべき必要性が明らかでないのであるから、とくに可及的速やかにこれを作成交付しなくとも、相当期間内に請求者に対し発行、交付すれば遅滞があつたものとはいい難く、従つて本件(1)証明書の場合原告が同年七月一四日に請求したのに対し、被告学園が同月二〇日までに交付しなかつたからといつて、この一週間にも足らない期間をとらえて、軽々に被告の証明書交付義務の履行につき遅滞があつたものということはできない。」としており、参考になる。厚労省『労基法上』342頁も当該裁判例を引用しており、労働者が期限を付して請求した場合においては、使用者は可能な限りこれに応じなければならないとしている。

 私見であるが、特に労基法22条2項の解雇予告期間中の解雇理由証明書の請求の場合、労働者の目的は解雇理由を確認することにより解雇を受け入れて解雇日に退職するか解雇を争うかを判断することにあるから、よほど解雇日直前の請求でない限り、使用者は遅くとも解雇日の前日までには解雇理由証明書を発行すべきであろう。そう解さないと、同項が紛争の迅速な解決を目的として解雇日以前の解雇理由証明書の交付義務を定めが意味がない。労働者としては、使用目的や期限を定めて請求しておくと、遅滞の有無がより明確になるであろう。

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