【不当解雇】Case631 年俸1000万円の中途採用の営業職に対する適格性や職務遂行能力の欠如を理由とする試用期間中の解雇が無効とされた事案・北野嘉哉事務所事件・東京地判令7.6.13労判1338.55

【事案の概要】

原告労働者Xは、公益財団法人の設立・運営コンサルティング業を営む被告Y社に、年俸1000万円で営業として中途採用されました。試用期間は3か月でした。

Y社は、Xが採用時に提出した人脈リスト(本件名簿)に関して虚偽の申告をしており、Xに超富裕層を紹介できる人脈がないことが判明したこと、および一般の営業担当者としての職務遂行能力も不足していたことなどを理由として、試用期間満了間際にXを本採用拒否(本件解雇)しました。

本件は、Xが、本件解雇は無効であると主張し、労働契約上の地位確認、解雇後の賃金等の支払を求めた事案です。

【判決の要旨】

1 人脈に関する虚偽申告及び適格性の欠如

判決は、Xが二次面接において、本件名簿に記載された者に対し積極的なアプローチをしていく旨述べているものの、Xが本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨を説明したと認めるには足りず、また、Y社にとっても、Xと本件名簿の掲載者との人的関係の存在および内容が、本件労働契約を締結するうえで必要な条件であったとも認められないとしました。

また、Xが富裕層との折衝経験を持っている又は富裕層の人脈を持っていることが、本件労働契約においてXが備えておくべき職務能力又は資質であったと認めるに足りる証拠はないとしました。

したがって、Xが富裕層との折衝経験を持っていなかった、または富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」であったり、「業務に適性を欠く」ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできないとしました。

2 一般的な職務遂行能力の欠如

Y社の営業社員の業務内容に照らし、短期間で成果を出すことは困難であること、また、Xが営業先等の関係者に対し顧客情報などをメールで送信した事実はあるものの、単発の事情であり具体的な損害も認められないから、これをもって直ちに「従業員として勤務させることが不適格」と認めることはできないとしました。また、Y社の指導は営業を行う相手方の属性を指摘するのみで、今後の指導によっても客観的に改善の見込みがないということはできないとしました。

3 結論

以上より、判決は、Xが相当額の賃金の支払いを受ける中途採用者であることを考慮しても、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在するとはいえず、社会通念上相当として是認できるともいえないとして、本件解雇を無効としました。

※確定

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