Case70 公務員の争議行為を禁止する国家公務員法が憲法28条に違反しないとした最高裁判例・全農林警職法事件・最判昭48.4.25刑集27.4.547【百選10版5】
(事案の概要)
公務員の労働組合活動をめぐる刑事事件です。
昭和33年10月に内閣が衆議院に提出した警察官職務執行法の一部改正案について、労働組合運動を抑圧する危険があるとの批判が展開され、公務員である被告人らが役員を務める全農林労働組合も、争議を実施しました。
被告人らは、争議指令を各支部等宛に発出し、また、争議当日、農林省庁舎の各入口にピケットを張り、同省職員に対し職場大会に参加するよう求め、国家公務員の争議行為をあおった等として、公務員の争議行為を禁止する国家公務員法に違反するとして起訴されました。
公務員の争議行為を禁止する国家公務員法の規定が、労働基本権を保障する憲法28条等に違反するかが問題となりました。
(判決の要旨)
1審判決
1審判決は、被告人らの行為が争議行為を禁止する国家公務員法に違反するとしても、刑罰の対象となる「あおり」には当たらないという法解釈により、国家公務員法が憲法28条等に違反しないとしつつ被告人らを無罪としました。
控訴審判決
控訴審判決は、被告人らの行為が「あおり」に当たるとして被告人らを有罪としました。
上告審判決
最高裁は、憲法28条の労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶとしつつ、労働基本権は、国民全体の共同利益の見地から一定の制約を受けるとしました。
そして、公務員の地位の特殊性と職務の公共性、公務員の勤務条件は国会で決めるべきであるという議会制民主主義の要請、公務員の争議に対しては市場の抑制力が働かないこと等の理由を挙げて、また公務員には人事院に対し行政措置要求や審査請求をするなどの労働基本権に対する制限の代償措置が整備されているとして、国家公務員法が公務員の争議行為を禁止することは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約であって、憲法28条に違反するものではないとし、有罪判決を維持しました。