Case75 試用期間及び本採用拒否の性質を示した最高裁判例・三菱樹脂事件・最判昭48.12.12労判189.16【百選10版8,10】

(事案の概要)

 被告会社は、新卒採用した原告労働者をについて、原告が在学中に大学自治会役員に就任し学生運動に関与したこと、大学生協の役員歴が存することを身上書や面接で秘匿し、経歴詐称をしたなどとして、試用期間満了により本採用拒否しました。

 本件は、原告が、本採用拒否の無効を主張し、雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。

 主に、①採用時に労働者の思想、信条を調査することが許されるか、②試用期間及び本採用拒否の法的性質が争点となりました。

(判決の要旨)

一審判決

 一審は、②試用期間及び本採用拒否の性質について、試用期間を定めても雇用の効力は契約締結時に確定的に発生し、ただ試用期間中は一定の事由による解約権を留保したものであるとし、解約権留保付の雇用契約とし、本採用拒否は解約留保権の行使であり解雇に当たるとしました。

 また、原告の回答は説明不足のきらいはあるが真実に副わないものではなく、悪意も存しないとして、本採用拒否を解雇権濫用で無効としました。

控訴審判決

 控訴審は、②試用期間及び本採用拒否の性質について一審を維持し、①通常の商事会社において、その入社試験の際、応募者にその政治的思想、信条に関係のある事項を申告させることは、公序良俗に反し、許されず、応募者がこれを秘匿しても、不利益を課し得ないものと解すべきであるとし、一審の結論を維持しました。

上告審判決

 最高裁は、①企業者は、経済活動の一環として契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないとしました。

 また、そうである以上、企業者が労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はないとしました。

 ②本採用拒否の性質については、原審同様留保解約権の行使、すなわち解雇であるとしました。留保解約権に基づく解雇には、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められるが、留保解約権の行使は、採用決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関する事由について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に集めることができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保するという、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるとしました。そして、これらにつき審理する必要があるとして、原判決を破棄して東京高裁に差し戻しました。

(コメント)

 現在では、厚生労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」(平成12.12.20)や職業安定法5条の4および指針(平成11年労告141号)が原則として思想・信条に関する情報の収集を使用者に禁じ、個人情報保護法が思想・信条を要配慮個人情報と位置づけ、本人の同意なき取得を禁止するなど、判決当時とは状況が異なっています。

 なお、差戻審である東京高裁において、原告が会社に復帰する和解が成立しているようです。その後、原告は、被告会社の子会社の社長にまで出世したそうです。

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