Case86 妊娠労働者の軽易業務への転換に伴う降格措置を無効とした最高裁判例・広島中央保健生協(C生協病院)事件・最判平26.10.23労判1100.5【百選10版18】

(事案の概要)

 被告生協が運営する病院や訪問介護施設で、副主任としてリハビリ業務の取りまとめ等に従事していた原告労働者(女性)は、妊娠したため、労基法65条3項(妊娠中の軽易な業務への転換)に基づき、当時従事していた訪問リハビリ業務から、身体的負担の軽い病院リハビリ業務への転換を希望しました。

 病院での勤務開始からしばらく経ったあと、生協は原告に対して、異動に伴い副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していたと説明しました。原告は渋々これを了承し、異動時から遡って副主任を免ずる旨の辞令が発出されました(本件措置)。

 その後、原告は産休・育休を経て訪問介護施設に復職しましたが、原告よりも職歴の浅い職員が副主任に就いていたことから、原告が再び副主任に任ぜられることはありませんでした(本件復職措置)。

 本件は、原告が生協に対して、主位的には本件措置が、予備的には本件復職措置が、男女雇用機会均等法(均等法)または育児介護休業法に違反し無効であるとして、副主任としての管理職手当や慰謝料等の支払を求めた事案です。

(判決の要旨)

一審判決

 一審は、本件措置は、原告の同意を得たうえで、生協の人事配置上の必要性に基づいてその裁量の範囲内で行われたものであるとして、原告の請求を棄却しました。

控訴審判決

 控訴審も、一審判決を維持しました。

上告審判決

 均等法9条3項は、女性労働者につき、妊娠、出産、産前休業の請求、産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることを禁止しています。

 最高裁は、妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに当たるとしました。

 そして、例外的に均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに当たらないのは、経緯業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときに限られるとしました。

 本件では、本件措置により原告が受ける管理職の地位と手当等の喪失という不利益が重大であることや、通常業務への復帰後も副主任への復帰が予定されていないことについて十分な説明がなされていないことなどから、原告が自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできず、本件措置につき均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情も認められないとして、控訴審判決を破棄し高裁に差し戻しました。

差戻審判決

 差戻審は、本件措置を無効とし、遡って管理職手当等の支払を認めました。また、本件措置が不法行為に該当するとして、慰謝料100万円等の損害を認めました。

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