Case101 統合失調症により意思能力を欠いた状態で提出された退職願を無効とした事案・長崎市事件・長崎高判令3.10.14

(事案の概要)
 被告長崎市の選挙管理委員会で働いていた原告労働者は、平成4年に「幻覚・妄想状態」と診断され、「心身衰弱状態」の診断書を提出して病気休暇を取得していました。また、平成17年に「統合失調症」の診断書を提出して病気休暇を取得していましたが、それ以降休職等はしていませんでした。
 原告は、平成25年頃までは通常通り業務をこなしていましたが、平成26年頃から自宅での異常な行動が増え、平成27年12月に職場離脱行為をした後、職場でも独り言などの奇異な行動をとるようになりました。
 原告は、平成28年3月、異動の内示につき大声で不満を述べた翌日に、選挙管理委員会に退職願を提出し、選挙管理委員会は原告を依願免職処分(本件処分)としました。
 本件退職願提出の直後、被告職員が原告の母に引取りを依頼するほどの異常な言動が見られ、原告は同日から隔離病棟に医療保護入院し、医師から入院当初に成年被後見人相当であったと診断されました。
 原告は、退職願提出は統合失調症が悪化したことにより、意思能力を欠く状態で行われたものであるとして、本件処分を不服として審査請求をしましたが却下されました。
 本件は、本件処分の取消訴訟です。

(判決の要旨)
 判決は、退職の意思表示は、公務員としての身分を失うという重大な結果をもたらすという点で、公務員である個人にとって極めて重要な判断であるから、それを行うのに必要な判断能力も相応に高度なものであるとしました。
 そして、事実経過からすると、本件退職願提出時において、原告の判断能力は、統合失調症のため、自身の置かれた状況を正確に把握したり、自身の言動がどのような影響をもたらすか、特にどのような法的効果をもたらすかについて判断したりすることができない程度であったとし、そうすると、少なくとも公務員としての身分を失うという重大な結果をもたらす退職の意思表示をするに足りる能力を有していなかったというべきであるから、本件退職願による意思表示は無効であるとし、本件処分を取り消しました。

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