Case100 労基法上の労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうとした最高裁判例・三菱重工長崎造船所事件・最判平12.3.9労判778.11【百選10版35】

(事案の概要)

 被告会社では、始業は所定の作業時刻に作業場において実作業を開始し、作業服への更衣、安全衛生保護具等の装着は始業前に行うこととされ、終業は所定の終業時刻に実作業を終え、終業後に更衣等を行うものとされていました。

 また、原告ら労働者のうち、造船現場作業に従事していた者は、材料庫からの副資材や消耗品等の受出しを始業時刻前に行うことを義務付けられ、鋳物関係作業従事者は、粉じん防止のため、始業時刻前に月数回の散水を義務付けられていました。

 本件は、原告らが、始終業時における入退場門から更衣所を経て作業場までの往復の歩行時間、更衣所等での作業服・保護具等の着脱に要する時間、終業後の手洗・洗面・入浴時間、始業時刻前の副資材や消耗品等の受出し・散水時間等が労働時間に該当すると主張し、会社に対して割増賃金の支払等を求めた事案です。

(判決の要旨)

1審判決および控訴審判決

 1審および控訴審は、更衣所等で作業服・保護具等を装着し準備体操場まで移動する時間、始業時刻前の副資材・消耗品等の受出しや散水に要する時間、および終業時刻後作業場等から更衣所等への移動と作業服・保護具の脱離に要する時間について、労働時間と認めました。

上告審判決

 最高裁は、労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるのであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとしました。

 また、労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働時間に該当するとしました。

 そして、原告らは事業所内での作業服および保護具等の着脱や副資材等の受出しおよび散水を義務付けられていたことから、これらに要した時間や移動時間は会社の指揮命令下に置かれた労働時間であるとし原審を維持しました。

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