Case105 在職中の労働者の引き抜き行為が違法とされたが、会社がその事実を取引先やスタッフに流布したことも違法とされた事案・スタッフメイト南九州元従業員ほか事件・宮崎地都城支判令3.4.16労判1260.34

(事案の概要)
 違法な引き抜き行為があったとして、会社が元従業員らを訴えた事案です。
 原告会社は、労働者派遣事業等を行う会社です。被告労働者は原告会社の宮崎市内の営業所で課長職にありました。
 被告労働者は、原告会社に在職中の平成30年5月、宮崎市内に労働者派遣業等を行う被告会社を設立し、同年6月に原告会社に退職届を提出し、同年8月に原告会社を退職しました。
 被告労働者は、原告会社に退職届を提出した後、原告会社の派遣スタッフに対し、「原告会社には内緒で動いてくれ。」「全て話を付けているので安心してきてほしい。」などと言って被告会社への転職を勧誘しました。派遣先企業に対しても、派遣スタッフの移籍は原告会社も了承済みである旨説明していました。
 被告労働者の原告会社在籍中に、被告会社は、原告会社の派遣先企業と派遣基本契約を締結し、実際に被告労働者の勧誘により数名の派遣スタッフが原告会社から被告会社に移籍しました。
 その後、原告会社は、派遣先企業及び派遣スタッフらに対して、被告らが重大な非違行為に当たる引き抜き行為をした旨記載された文書を配布しました。
 本件の本訴は、原告会社が被告らの引き抜き行為が違法であるとして損害賠償請求したものです。
 これに対して、被告らが、原告会社の文書配布行為が名誉・信用棄損であるとして反訴しました。
 
(判決の要旨)
1 本訴(原告会社から被告らに対する損害賠償請求)
規範

 判決は、従業員が行った引き抜きが単なる転職の勧誘を超え、社会的相当性を逸脱して極めて背信的な方法で行われた場合には、雇用契約に付随する信義則上の義務である誠実義務違反となるとし、当該誠実義務は雇用契約存続中にのみ負うとしました。
 社会的相当性を逸脱した引き抜き行為であるか否かは、引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数、従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響、転職の勧誘に用いた方法、態様等の諸般の事情を総合して判断するとしました。
 また、被告会社を念頭に、企業が同業他社の従業員に対して自社へ転職するよう勧誘するに当たって、単なる転職の勧誘の範囲を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合、当該企業は、同業他社の雇用契約上の債権を侵害したものとして、不法行為責任を負うとしました。
 
 なお、原告会社の事業は登録型派遣(派遣労働者として登録している者と、派遣先企業が決定した都度雇用契約を締結する。)であるところ、原告会社に登録のみして雇用契約を締結していない状態の登録スタッフについては、そもそも原告会社の労働者ではないから違法な引き抜きの対象にはならないとしました。

本件の判断
 判決は、本件の引き抜き行為は、派遣先企業を変えずに派遣元企業だけを変えるものであり、原告会社に対する影響が大きいとしました。また、被告労働者が原告会社在籍中に被告会社を設立し、実際に収益を上げていた事情は行為の悪質性を基礎づけ、被告労働者の派遣スタッフ及び派遣先企業に対する言動のも問題があるとし、本件の引き抜き行為は社会的相当性を逸脱しているとし、被告らの責任を認めました。
 そして、引き抜かれた派遣スタッフに係る3か月分の売上約300万円を因果関係のある損害として認めました。
 
2 反訴(被告らから原告会社に対する損害賠償請求)
 判決は、原告会社が配布した文書の記載は、事実の有無に関係なく、経済活動を営んでいく被告らの社会的評価を低下させるものであるとしたうえ、原告会社の行為は公共の利害に関するものではなく、公益目的ではなく原告会社の利益のために行ったものであるとして、違法性を阻却する事由もないとし、被告会社の無形損害として100万円、被告労働者の慰謝料として70万円を認めました。

※確定

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