Case340 提訴記者会見における発言の名誉毀損を検討する際には、まず訴状の請求原因事実の記載と合致する限度で真実かどうかを検討すべきであるとした事案・協同組合グローブ事件・熊本地判令4.5.17労経速2495.9

(事案の概要)

1 本訴(残業代及び損害賠償請求)

 外国人技能実習制度の管理団体である被告協同組合において、外国人技能実習生の指導員として勤務していた原告労働者が残業代請求した事案です。

 原告は、実習実施者への訪問・巡回指導業務に最も従事していました。

 事業場外みなし制、固定残業代、管理監督者の有効性が争点となりました。

 また、原告は、被告上司がグループチャットで原告に対する不満を述べて原告を誹謗中傷した行為等について、被告上司らに対して損害賠償請求しました。

2 反訴(提訴記者会見による名誉毀損)

 協同組合は、本訴の提訴記者会見における原告の発言が名誉毀損に該当するとして原告に損害賠償を求めて反訴しました。

(判決の要旨)

1 事業場外みなし制

 協同組合が原告らに毎月提出を求めていたキャリア業務日報には、単に業務内容だけでなく、具体的な行き先や面談者等とともに業務時間を記載することとされており、協同組合は正確性が担保された同業務日報に基づいて労働時間を把握した上で残業時間を把握していたとして、労基法38条の2第1項の「労働時間を算定し難いとき」に当たらないとして、事業場外みなし制を無効としました。

2 固定残業代

 協同組合の就業規則には「相談対応手当」2万円は「全額超過勤務手当として取り扱う」と規定されていましたが、支給明細書上残業時間に基づいて算定した残業手当から相談対応手当が控除されている旨の記載がないことなどからすると、同手当は実態としては時間外労働等に対する対価として支払われているものと認めることはできないとして、固定残業代を否定しました。

3 管理監督者性

 原告は協同組合の参与に就任したものの、理事会への参加は認められておらず、労務管理に指揮監督権はありませんでした。

 また、原告は必ずしも始業・終業時刻に拘束されずに勤務していましたが、それは参与に就任する以前から変わりありませんでした。

 さらに、参与就任後に基本給が1万円昇給したのみでした。

 これらの事情等から、管理監督者性が否定されました。

4 損害賠償請求

 被告上司が原告を誹謗中傷するメッセージを送信した行為は、直ちにその内容が伝播するものではないとしても、優越的な関係に基づいて、業務の適正な範囲を超えて原告の就業環境を害し、ひいては原告の人格的利益を侵害するものであり、違法なパワーハラスメントであるとして、慰謝料10万円を認めました。

5 提訴記者会見による名誉毀損

 判決は、訴えの提起自体が不法行為となるのは限定された場合のみであるところ、報道機関が自ら訴状を閲覧してその内容を報道した場合との均衡を考えると、訴えの提起に伴って記者会見を行ったことにより相手方の名誉ないし信用を毀損したばあいにおいて、摘示された事実が真実であるかどうかの判断に当たっては、まず、当該記者会見において説明した内容が訴えを提起した事実及び訴状の請求原因事実の記載の事実と合致する限度で真実のものかどうかを検討し、次に、説明した内容がこれらの事実にとどまらないときは、その説明した内容に係る事実の真実性ないし真実相当性を検討するのが相当であるとしました。

 そして、記者会見における原告の発言のうち、訴状の請求原因となっていない事実について一部真実性・真実相当性が認められないとして損害賠償義務を認めました。

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