Case106 宗教法人の理事に対する通報を理由とする懲戒解雇が、公益通報者保護法の趣旨から無効とされた事案・神社本庁事件・東京高判令3.9.16
(事案の概要)
1 原告A
原告労働者Aは、被告宗教法人において参事の資格で総合研究部長の地位にありましたが、原告Aが被告の理事2名に対して、被告代表者らが土地の売買に関して背信行為を行ったなどと通報する本件文書を交付したことなどを理由に、被告から懲戒解雇されました。
原告Aは、懲戒解雇の無効を主張し、雇用契約上の地位確認等を求めました。
2 原告B
原告労働者Bは、被告において参事の資格で教化広報部長の地位にありましたが、宴席で上長からの命令に応じない旨を公然と表明し、被告代表者を「大馬鹿者だ」と非難したこと等を理由に、被告から降格減給の懲戒処分を受けました。
原告Bは、降格減給処分の無効を主張し、差額賃金の支払等を求めました。
(判決の要旨)
一審判決・東京地判令3.3.18労判1260.50
1 原告A
判決は、公益通報者保護法の適用及びその趣旨から、労働者が使用者の役員、従業員等による法令違反行為の通報を行った場合、①通報内容が真実であるか、または真実と信じるに足りる相当な理由があり、②通報目的が、不正な利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、③通報の手段方法が相当である場合にんは、当該行為が被告の信用を毀損し、組織の秩序を乱すものであったとしても、懲戒事由には該当せず又は該当しても違法性が阻却されることになり、また①~③の全てを満たさず懲戒事由に該当する場合であっても、①~③の成否を検討する際に考慮した事情に照らして、選択された懲戒処分が重すぎるというときは、客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くため、懲戒処分は無効となるとしました。
そのうえで、①本件文書の内容について、真実であると証明がなされたとは認められないものの、主たる内容につき真実と信じるに足りる相当な理由があり、②通報目的は不正の目的とはいえず、③手段もやむを得ない相当なものであったとし、本件文書の交付が解雇に相当するとは言えないとし、懲戒解雇は客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くもので無効としました。
2 原告B
判決は、宴席における原告Bの言動が懲戒事由に該当するとしても、宴席における一回限りの発言であること、発言については後に謝罪していることから、降格とするのは重すぎるため、原告Bに対する処分は客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くため、無効としました。
控訴審判決
控訴審も、一審判決を維持しました。
※上告棄却により確定