Case116 賃金債権との相殺の合意は労働者の自由な意思に基づく必要があるとした最高裁判例・日新製鋼事件・最判平2.11.26労判584.6【百選10版32】
(事案の概要)
本件労働者は、退職した場合には退職金等から全額一括弁済するとの約定で、被告会社や銀行等から住宅資金の借入れをしていました。その後、本件労働者は、破産状態となったため、会社に対して、退職を申し入れるとともに、会社等からの借入金の残債務を退職金等で弁済する手続を執るよう依頼しました。会社は、これに応じて本件労働者の退職金債権と会社の貸金債権等を相殺しました。
本件は、本件労働者の破産管財人が、退職金との相殺が労基法24条1項の全額払いの原則に違反するとして、退職金の支払いを求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、労働者がその自由な意思に基づいて、使用者が労働者に対して有する債権と労働者の賃金債権とを相殺することに同意した場合には、右同意が労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには、右同意を得てした相殺は労基法24条1項の全額払いの原則に違反するものではないとし、右判断は、全額払いの原則の趣旨に鑑み、厳格かつ慎重になされなければならないとしました。
本件では、相殺への同意は本件労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在し、適法・有効なものであるとされました。