Case127 精神疾患が疑われる労働者の欠勤に対して医師の診断や休職の検討なく行われた諭旨退職処分が無効とされた事案・日本ヒューレット・パッカード事件・最判平24.4.27労判1055.5
(事案の概要)
原告労働者は、長期にわたって職場で嫌がらせを受けていると被告会社に訴えましたが、会社が調査したところ原告の訴えは被害妄想等何らかの精神的不調に基づくものでした。
原告は、会社の調査で納得のいく結果を得られず、同僚の嫌がらせにより自己に関する情報が外部に漏えいされる危険があると考え、有給消化後会社に休職を認めるよう求めましたが、認められなかったため、問題解決されたと自分自身が判断できない限り出勤しないとしたうえ、約40日間にわたり欠勤しました。
会社は、原告を、正当な理由のない無断欠勤があったとして諭旨退職処分(本件処分)としました。
原告は、本件処分の無効を主張して、被告に対して雇用契約上の地位確認及び賃金等の支払いを求めました。
(判決の要旨)
1審判決
1審は、原告の精神的不調については触れず、原告の被害事実が認められなかった以上労務提供に何らの支障もなかったとして、原告の欠勤には正当な理由がなく本件処分は有効であるとしました。
控訴審判決
控訴審において、原告は、精神疾患が原因の被害妄想に対して、会社は使用者として配慮義務を尽くすべきであったと主張しました。
控訴審は、原告は就業規則の「傷病その他やむを得ない理由」によって欠勤することが可能であったと認め、精神的不調が疑われるのであれば休職を促すことが考えられたなどとして、欠勤は懲戒事由に該当しないとして本件処分を無効としました。
上告審判決
最高裁は、精神的な不調のために欠勤を続けている労働者に対して懲戒処分をとる際に、使用者としては、精神科医による健康診断を実施するなどした上で、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであるとし、そのような対応をとることなく、直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を採ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の態度として適切なものとはいい難いとして、原告の欠勤は正当な理由のない無断欠勤に当たらないとし、本件処分を無効として、原告の請求を認めました。