Case171 労働委員会は団交事項に関して合意の成立する見込みがない場合であっても使用者に対して誠実交渉命令を発することができるとした最高裁判例・山形県・県労委(国立大学法人山形大学)事件・最判令4.3.18労判1264.20

(事案の概要)

 不当労働行為救済命令に対して原告法人が提起した取消訴訟です。

 国立大学法人である原告法人は、人事院勧告にならって55歳を超える教職員の昇給を抑制することとし、当該事項につき労働組合に団体交渉を申し入れました。また、法人は、人事院勧告にならって基本給減額等を含む給与制度の見直しをすることとし、当該事項についても組合に対して団体交渉を申し入れました。

 団体交渉は複数回行われましたが、法人は組合の同意を得られないまま昇給抑制及び賃金引下げを実施しました。

 組合は、団体交渉における法人の対応が不誠実で不当労働行為(不誠実団交)に該当するとして不当労働行為救済命令を申し立てました。

 山形県労働委員会は、団体交渉における法人の対応につき、昇給抑制や賃金引下げを人事院勧告と同程度にすべき根拠についての説明や資料の提示を十分にせず、法律に関する誤った理解を前提とする主張を繰り返すなど頑ななものであったとして、不当労働行為と認め、法人に対して適切な財務情報等を提示するなどして自らの主張に固執することなく誠実に団体交渉に応じることを命じました。

(判決の要旨)

1審判決

 1審は、本件各交渉事項に係る規定の改正は既に施工されており、これについて改めて合意を達成することはあり得ないから、本件各交渉事項について団体交渉に応じるよう法人に命じることは法人に不可能を強いるものであり、本件救済命令は、その内容において労働委員会の裁量の範囲を超えるものであるとして、本件救済命令を取り消すとしました。

控訴審判決

 控訴審も、本件救済命令が法人に対して本件各交渉事項について更なる団体交渉をするように命じたことは、労働委員会規則33条1項6号の趣旨にも照らし、労働委員会の裁量権の範囲を逸脱したものであるとして、一審判決を維持しました。

上告審判決

 最高裁は、労働委員会は、救済命令を発するに当たり、その内容の決定について広い裁量権を有し、裁判所は、労働委員会の裁量権を尊重し、その行使が、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、または著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではないという従来の最高裁の判例を確認したうえ、団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合であっても、使用者が誠実に団体交渉に応じること自体は可能であり、使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは、その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するものであるとして、本件救済命令に裁量の逸脱はないとし、控訴審判決を破棄して高裁に差し戻しました。

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