Case181 就業規則に36協定の範囲内で残業を命じる旨定められその内容が合理的な場合には労働者は時間外労働義務を負うとした最高裁判例・日立製作所武蔵工場事件・最判平3.11.28労判594.7【百選10版38】
(事案の概要)
原告労働者の上司は、原告の手抜き作業による異変を発見し、原告に対して残業して原因の究明とやり直しを命じましたが(本件残業命令)、原告はこれを拒否して帰宅しました。
被告会社の就業規則には、36協定により1日8時間の実労働時間を延長することがある旨定められており、36協定には実労働時間を延長できる場合として「⑤生産目標達成のため必要がある場合、⑥業務の内容によりやむを得ない場合、⑦その他前各号に準ずる理由のある場合」などが定められていました。
会社は、残業拒否につき原告を出勤停止14日の懲戒処分とし、原告に始末書の提出を命じましたが、原告は残業命令に従う義務はないとの態度を変えませんでした。
そこで、会社は、原告に反省の態度がみられず改善の見込みがないとして、原告の過去の懲戒処分歴と相まって、原告を懲戒解雇しました。
本件は、原告が懲戒解雇の無効を主張して、会社に対して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
一審判決
一審は、原告に残業義務は生じないとして、原告の請求を認容しました。
控訴審判決
控訴審は、原告の残業義務を肯定し、原告の請求を棄却しました。
上告審判決
最高裁は、使用者が労働組合等と36協定を締結し、これを所轄労基署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うとしました。
そのうえで、本件就業規則の内容は合理的であり、36協定の⑤~⑦に該当することから、原告は時間外労働をする義務を負い、残業命令に従わなかった原告に対する懲戒解雇が権利の濫用に該当するとはいえないとし、原告の請求を棄却しました。